安車蒲輪

読み:あんしゃほりん

意味:老人を手厚くもてなすことのたとえ。

出典:『漢書』<儒林伝、申公>

解説①:『岩波四字熟語辞典』より
 「安車」は、古代中国で、老人などがすわって乗れるように作った小さい車。
 「蒲輪」は、車の動揺を少なくするために蒲(がま)の葉で車輪を包んだもの。
 「安車をして蒲をもって輪を裹󠄀(つつ)み、駟(し)に駕(が)して(四頭立ての馬車に仕立てて)申公を迎う」(『漢書』<儒林伝、申公>)から。
 漢の武帝が八十余歳の魯(ろ)の儒者、申公を迎えに出した時の様子を言う。

補説:
 車というと、座って乗るのが普通だと思いがちですが、古代中国の車は立って乗るのが一般的だったようです。
 蒲(がま)は池や沼の浅いところに生える植物のこと。葉は長さ約2メートルになり、昔はその葉で敷物を作っていたそうです。その蒲の葉を使ってどのように車輪を包んでいたのか、いろいろ調べましたが、具体的にはわかりませんでした。想像するに、蒲の葉で作った敷物を使って包んだか、あるいは、敷物を作る前の段階の蒲の葉を車輪に巻きつけていたんじゃないかと思います。「包む」は、「つつーむ」と読む他、「くるーむ」とも読みますので、その包み方によって、読み方が変わってくるかと思います。
 馬車とは、馬に引かせて人や荷物を運ぶ車のことですが、頭数(馬の数)によって、身分や位に差をつけていたようです。ここでは、四頭立てということですから、身分や位の高い人が乗る馬車だと思います。

解説②:
「蒲」という漢字を大きく分けると、
「艹󠄀」+「浦」
 「艹󠄀」は漢字の部首のひとつ。「草冠(くさかんむり)」と言って、これを加えることによって、草のいろいろな名称・状態、草で作るものなどに関する漢字が作られます。
 「浦」の意味は、
①海・川・湖などに沿った一帯の地。
②大きな川の分流が海に入る所。
③[日本]海や湖などの、陸地にはいりこんだ所。入り江。
 この「浦」をさらに分けると、
「氵(水)」+「甫」
 「氵」漢字の部首のひとつ。水が偏(へん)になると「さんずい」と言い、河川の名や状態、また、液体の性質・状態を表す漢字が作られます。
 「甫(ホ、フ)」は、
「屮+田」
 「屮」は「テツ」と音読みし、「草木の芽がでたばかりのもの」を意味します。この「屮」と「田」と合わせたものが「甫」で、「苗を育てる畑」を意味し、平らに広がる意味を含みます。
 *「甫」はのちに、「父+用」の組み合わせへと変化し、今の字形ができたとのことですが、なぜそうなったのか、この記事を書いている段階ではわからりませんでした。あとで、改めて調べ直し、「出直し!漢字学習」にその詳細を書きたいと思っています。

指導上のポイント:
 この四字熟語は「老人を手厚くもてなすことのたとえ」ですが、辞書によっては、「賢人(けんじん)を優遇することにもいう」とあります。ですから、ただ単に「お年寄りを大切に」とか「高齢者を労(いたわ)る」ということではなく、

 お年寄りや賢人(聖人に次ぐ徳の高い人)といった人たちに敬意を表すために礼を尽くす

ということを教えてくれる四字熟語だと思います。

*参考資料
・中島達夫「中国詩と車」『中日本自動車短期大学 研究紀要<論叢>』第12号、1982年
 https://nakanihon.ac.jp/wp-content/themes/nac/doc/college/ronso/nac_ronso_012-09.pdf


 



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