「勇」と、「用・甬󠄀」再々考

 「匹夫之勇」という四字熟語にある「勇」について調べようと思い、成り立ちを確認したところ、「う~ん、またか~」という感じでした<苦笑>。
甫:漢検準1級(2023年8月)
「甫」再考と「圃」「用」「甬」「同」(2025年5月)
 どちらも、「甫」に関連して「甬」について調べたんですが、結局自分なりの結論が出ないままで終わってしまっていました。そのため、またここで悩まされることに・・・。
 三度目の正直を期して、今回はあきらめることなく考えていきたいと思います。

 まず、「勇」の意味を、『新漢語林 第二版』を元にしてまとめてみました。
①いさ-ましい。元気がある。気力がある。つよい。敵を恐れない。
②思いきりがよい。いさぎよい(潔い)。
③いさ-む。心が奮い立つ。
④つわもの(強者)。兵士。
 意味は、「勇ましい」が基本になると思います。

 次に成り立ちですが、「マ」+「男[田+力]」ではなく、
(ヨウ)+力
です。「マ+男」だったらよかったんですが・・・<苦笑>。

 というわけで、「甬」について再々考します。

 まず、成り立ちを再確認します。

①象形。小型の鐘を上から吊(つる)した形にかたどる。
②象形。甬鐘(ヨウショウ)という筒形の柄のついた鐘の形にかたどり、その筒形の柄の意味を表す。③会意兼形声。「人+(音符)用(上下にとおす)」で、人が足で地面をとんと突(つ)くことを表した字。踊の原字である。
④象形。上部に掛けるところのある筒形の器、桶の初文。全体が象形の字である。甬は小鈴の象形。
⑤「用」の縦線に装飾的な筆画を加えて区別した異体字。

 上記の成り立ちは今年(2025年)5月に再考したときに調べたものですが、今回改めてそれぞれの成り立ちを読み、「甬」の全体像がある程度見えてきました。

 まず、結論から先に言うと、②の「甬鐘という筒形の柄のついた鐘の形」というのが「甬」を表わしていると思います。「筒形の柄の意味を表わす。」とありますが、これは後の研究・分析の結果として、甬鐘の各部分に与えられた名称ですので、字形的には「甬」の「マ」の部分が「柄」を表わしているとの理解でいいと思います。
 それから、①も②とほぼ同じ内容です。「小型の鐘=甬鐘」だと思いますし、甬鐘は柄の部分を掛けて(吊して?)音を出していたようですから、より具体的な説明です。
 ③と④にある「踊」「桶」の原字あるいは初文というのは、「甬」が構成要素となっているという理解でいいと思います。
 ⑤については、異体字という見方は正しいと思います。なぜなら、「甬」「用」の古い字形に同じものがあるからです。ただ、「用」に「マ」を加えて「甬」という漢字が作られたのではなく、「甬」から「マ」を省略して「用」という漢字を作り、「用いる、作用する(働き?)、道具」などといった、いわゆる「鐘」という具体的な形から切り離して、幅広い意味を持たせたのではないかと思います。

 後になってしまいましたが、以下の資料や内容から、上記の結論に至りました。

 これが「甬鐘」の画像で、その下にあるのが「甬」の古い字形です。

 この「甬鐘」は中国の古い時代に、青銅で作られた打楽器です。楽器ですから、音楽を奏(かな)でることをはじめ、祭祀などに用いられたとのことですが、亡くなった人と一緒にお墓に埋葬する品でもありました。甬鐘には銘文なども刻まれていて、当時の文化的なものとしては重要なものだったと考えられます。その「甬」を文字(漢字)で表わそうとしたのは自然なことだったと思います。

 「甬」という漢字は単体で使われることはほとんどないようで、漢字の構成要素として見ることが多いです。今回のテーマである「勇」の他、「通」「痛」「桶」「湧」「踊」「俑」「蛹」などが頭に浮かびます。
 以前、この「甬」について考えたとき、それぞれに共通する意味合いがなんなのかを考え、悩まされました。そして、その共通する意味合いとして、「筒形をしたなにか」を表わすための構成要素と考えました。しかし、そう考えると当てはまらないものや、こじつけたような解説になったりもします。そのため、共通する意味合いをひとつに絞るよりも、「甬、甬鐘」という打楽器の特性や用途などを踏まえて、それぞれの漢字を理解したほうがいいように思いました。
 たとえば、次のような考え方です。
「勇」:打楽器のリズム+力という組み合わせで勇ましさを表わそうとした。
    戦いにおいて士気を鼓舞したりする目的で「甬」が使われた。
「通」:筒形をしたなにかをイメージし、それに「辶」を加えた。
「痛」:打楽器のリズムがズキズキするような痛みを想起させると考えた。
「桶」:「甬」を逆さにすると容器のような形になり、それに木を加えて「おけ」とした。
「湧」:「勇」に水(氵)を加えて、水が勢いよく(勇ましく)湧き出る様子を表わした。
「踊」:打楽器のリズム+足という組み合わせでリズムに合わせてステップを踏むイメージ。
「俑」:「甬」は副葬品でもあり、それに「亻󠄀」を加えて副葬品として埋められる人形を表わした。
「蛹」:筒形をしたなにかをイメージし、それに「虫」を加えて「さなぎ」の状態を表わした。
 ようするに、無理に「筒形をしたなにか」としないで、「甬」を打楽器そのものとして構成要素に用いられた可能性もあると考えたほうが説明しやすい、理解しやすいように思いました。

 最後に、改めて、「甬」の成り立ちについて整理したいと思います。

・「甬」は「甬鐘」という、青銅で作られた打楽器の形。
・「用」は「甬」の異体字で、「甬」の持つ意味と区別され、幅広く用いられる。
・一方、「甬」は単体で用いられることはほとんどなく、漢字の構成要素として用いられる。
・「甬」は打楽器そのものの意味の他、その形状・性質・用途などから「筒形のなにか」というイメージを持つ。

 以上、「甬」に関する勝手な推論でした。間違っていることも多々あると思いますが、やっと自分なりに整理ができました。

 これで終わりになるといいんですが・・・<笑>

*参考資料
『殷周時代における長江中流域の青銅器文化の形成と展開』譚永超、九州大学学術情報リポジトリ
https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/4784370/lit0257.pdf
「世界の記憶」国際リストに登録された「曽侯乙編鐘」の資料文献展開催 湖北省武漢、
人民網日本語版
https://j.people.com.cn/n3/2025/0612/c94638-20326941.html
「甬」のはなし『かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/10472073.html
「勇」のはなし(修正)『かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/10481891.html
「通」のはなし『かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/10421509.html
メトロポリタン美術館
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/61053
*文中にある「甬鐘」の画像はここからお借りしています。

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