韋:漢検1級

音読みは、「イ」。訓読みは、「なめしがわ、そむーく」。意味は『漢字源』を参考。

①なめしがわ。毛を取り去って柔らかくした動物のかわ。
②なめしがわのように柔らかい。しなやか。
③そむ―く。行き違いになる。
④取り囲む。めぐらす。まわりにめぐらした囲い。

成り立ちについては、諸説あるため、どれが正しいのか判断に迷うが、古い字形を元にした解釈は、

真ん中に、ある場所を示す四角い字形があり、その上下に、左右の足が反対を向いて
描かれている。

というのが、共通点のように思える。

”ある場所”というのは、お城のある町で、四角い線は城壁あるいは、その町の区域を示しているとのこと。『角川新辞源』によると、この四角は、

という指事文字。「国」という漢字などに使われていて、「くにがまえ」という部首といったほうがわかりやすいかもしれない。

“左右の足”については、『字統』では、足の形の

としている。一方、『新漢語林』『角川新辞源』では、

舛=夊+㐄

としている。なお、「韋」では「夊」と「㐄」が上下に配置されている。

「夊」は、「スイ」と音読みし、『字統』によると、「止」を逆さまにした形。

後から行く、ゆっくり歩く、足を引きずる、といった意味合いがある。

「㐄」は、「カ」と音読みし、「夊」の字を反対の方向に向けた形。『講談社新大字典』によると、大股に歩く、またぐ、という意味らしい。

この「夊」と「㐄」を合わせた「舛」の字の篆文(テンブン)という字形は、

のように書かれているものがあり、「舛」の原型をとどめている。

「舛」の意味は、

ア)背(そむ)く。違(ちが・たが)う。
イ)入り交じる。乱れる。
*[日本]ます。「升」の俗字。行書体・草書体が「升」に近いことから。

「韋」の上下の字形は、この篆文の字形が時代とともに変化していった結果だろうと思われるが、上部は、漢数字の「五」の「一」を取り除いた形、下部は、カタカナのワ行の「ヰ(イ)」に統一されたのではないかと思う。
*カタカナの「ヰ」は、漢字の、井戸の「井」の省略形。

話があちこちに飛び、ややこしくなってしまったが、結局、どの成り立ちも、「あし」が元になっている。

”ある場所”の上下に「あし」が描かれていることから、その場所を回ったり、あるいは反対方向へ向かったり、というふうに意味づけされ、③④のような意味があるのだと思う。

以上、③④については、よくわかったが、一方、なぜ、①②にある「なめしがわ」という意味があるのか、よくわからない。

調べていくうちにわかったことは、

何かを縛(しば)ったり、閉じたり、巻いたりする、紐(ひも)のようなものが
「かわ」でできていて、そのため、「なめしがわ」という意味に用いられる
ようになった。

という説が共通点のように思えた。

しかし、どうも納得がいかず、更に調べていくうちに、自分なりに納得できる答えが見つかった。以下に整理してみる。

・古い時代、体を覆う物として、動物の「かわ」が利用された。⇒ 

・その皮はそのままだと腐ったりするので、干して乾かした。⇒ 

・乾かしたままだと硬いため、柔らかくした。⇒ 

「皮」は、動物の皮を手で剥ぎ取っている形。

「革」は、その剥ぎ取った皮をピンと張って干し、乾かしている形。

では、「韋」はどうかというと、

乾いて硬い「革」を、足で踏んで柔らかくしている形。

なのではないかと考える。

「なめす」は漢字で「鞣す」と書き、文字通り、「革を柔らかくすること」を意味する。

特定非営利活動法人日本皮革技術協会ホームページ」のメニュー「皮革の知識」⇒「皮のなめし」の項目に、原始的ななめし方というのがあって、その方法に、

・手や足でもむ。歯で噛む。

というのがあった。この「足でもむ」という行為は、おそらく「踏む」ことであり、「韋」という漢字の字形がピッタリ合ったのではないかと思う。

”ある場所”を”ある物”とし、その”ある物”は、動物の「革」とし、足で踏んで、鞣しているというふうにみたのではないかと思う。また、こうして、

 革 韋

を並べてみると、なんとなく字形が似ていて、「かわ」の状態を漢字で区別するのに適当と思われたのではないかとも思う。

現在は、このように区別されることもなくなっているようで、「韋」を「なめしがわ」の意味で用いられることはほとんどないように思うが、四字熟語に、

韋弦之佩󠄀(イゲンのハイ):
なめしがわの装身具と弦の装身具。韋は、なめしがわで柔らかく、弦は、弓づるで強くきびしい。性格の強い人は韋を身につけ、弱い人は弦を身につけて、それぞれの個性を変えようとすること。自己修養の訓戒とすること。〔韓非子、観行〕

韋編三絶(イヘンサンゼツ)
読書に熱心なことのたとえ。孔子が易(エキ)を愛読して、なめしがわのとじ糸(竹簡をとじる糸)が何度も切れたという故事による。〔史記、孔子世家〕
『新漢語林 第二版』

があり、漢検に出題されることもあるので、覚えておきたい。

ちなみに、一般的に用いられる「なめしがわ」という漢字は、

文字通り、「革を柔らかくする」ということで、わかりやすい。また、

という漢字もあって、これは「革を平ら(旦)にする」ことを表している。

「韋」を含む漢字には、

違、偉、緯、韓、

等があり、「韋」の基本的な意味を理解しておくことは、こういった漢字を理解するのにも役に立つと思う。

「韋」を含む熟語で、覚えておきたいものがいくつかあった。

韋脂(イシ):
なめしがわと、あぶら。柔らかくなめらかなもの。
人にこびへつらうことのたとえ。

脂韋(シイ):
あぶらと、なめしがわ。どちらも、柔軟であることから、時世のうつりかわりに
従って、常にうつりかわる態度。また、その者のたとえ。
*「楚辞」卜居の「如脂如韋=脂のごとく韋のごとく」から。

韋柔(イジュウ):
なめしがわのように柔らかい。
性質が軟弱で、他人の思い通りになること。

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