医
音読みは、「イ」。訓読みは「い-やす」「くすし」。訓読みからはそれぞれ、「癒やす」「薬師(くすりし→くすし)」が連想される。
意味は訓読みにもあるように、
①病気を治す。いやす。
②病気を治す人。医者。くすし。
その他、
③甘酒。梅酢
なんてものもあった。確かにどちらも体に良さそう<笑>。
熟語には類義語として出題されそうなものがあった。
医伯(イハク)=国手(コクシュ)
どちらも、「すぐれた医者。名医。」のことで、尊敬を込めた言い方。
医伯の「伯」は、年長の男性を尊敬して言う言葉であるから、理解できる。一方、なぜ国手というのかがわからないため、調べてみた。
出典の詳細はわからなかったが、中国の歴史書『国語(春秋外伝)』が出典とのこと。
一国の王の病気を治すことは、その国の安定につながる。また、それだけでなく、一人の病気を治すことが家族の安定、延いては、社会の安定にもつながる、ということから、
国を医する名手⇒国手
になったらしい。
漢検の試験対策としてはここまでにしておいたほうがいいとは思いつつ、やはり気になるのが成り立ち<苦笑>。
まず、「医」の元となっている漢字は、
醫、又は、毉
共通しているのは、
殹 (エイ)=医+殳(シュ、ほこ[たてぼこ、つえぼこ])
そして、それに、それぞれ、
酉(ユウ、とり):酒器(酒つぼ)の形の象形文字。
巫(フ、みこ、かんなぎ):両手で工具(呪術の道具)を捧げ、神を招き求める人
の象形又は会意文字。
が加えられている。
これらの漢字が用いられる背景には、古い時代に行われていた医療行為がある。
その時代には今のような設備や道具があるはずもなく、病を治すため、神霊などに働きかけて望むままに超自然的な現象を起こさせようとする呪術や、神仏に祈る祈祷などが行われていたようで、それを頭に入れて、上記の漢字を個々にみていきたい。
まず、「医」から。
医=匸+矢
この、カタカナの「コ」を反対にしたような漢字(部首)は2種類ある。
匚(はこがまえ)
匸(かくしがまえ)
よく似ているため、常用漢字では区別しないで、「はこがまえ」に統一されているが、医は本来、「かくしがまえ」と矢の組み合わせになっている。
矢は狩猟や戦いに用いられていたが、その他、魔除けや厄払いといった、目には見えない、”魔”や”厄”をも祓う力があると信じられていた。
具体的なやり方はわからないが、矢をどこかの場所に置いて、あるいは何らかの入れ物に入れて、覆い隠すようにして「匸」、呪術なり祈祷なりを行い、病を治そうとしていたのではないか。
次に、「殳」は、
殳=又(手)+シュ(*机を表す几(キ)とは別字)
「又」の上にある「シュ」は、『角川新辞源』によると、羽の短い鳥が飛ぶ様子をかたどった象形文字とのこと。
『字統」によると、古くは鉞(まさかり)の形で、後に投げ槍(やり)の形になったとのことだが、その上部には羽の飾りをつけるそうなので、2つの辞書を総合すると、「殳」は、
手に、羽根飾りの付いた槍のようなものを持った形
ということなのだろうと思う。そして、これも具体的なやり方は不明だが、手に槍のようなものを持って呪術なり祈祷なりを行って、病を治そうとしていたと思う。
よって、
殹
は、呪術や祈祷が、ある種閉ざされた密室のような場所で行われていたことからか、”覆い隠す幕”という意味を持つ他、呪術や祈祷のさいに発するときの呻(うめ)くような声とし、音読みは「エイ」。まさに、「エイッ!」というかけ声のようにも思える。
そして、時代が進むにつれ、呪術や祈祷の他、薬草を酒つぼに漬け込んだ薬酒を用いるようになったことから、
毉 醫
と区別するようになったのだろうと思う。そして、時代と共に、呪術や祈祷は廃(すた)れ、
醫
が残り、そして今はその略字として、「医」が用いられている。
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