以
音読みは、「イ」。訓読みは、「もっ-て、もち-いる」
「以上、以下、以内、以外」に「以心伝心」、「本日を以て、閉店します」「和を以て貴しとなす」など、よく目にする漢字ではあるが、成り立ちについては、奥が深い。字体も、日本語を学ぶ外国の人たちにとっては覚えにくいという話を聞いたことがある。
漢検1級対策として特に気をつける熟語などはなかったが、成り立ちを調べているうちに面白いことがわかったきたので、それを整理してみたい。
「以」の古い字形は、田畑を耕す農具の「鋤(すき)」、あるいはその「鋤」を人が手に持っている形らしい。
この「すき」と呼ばれる農具だが、年代や用途の違いによって、形もいろいろある。そのため、異なる古い字形がいくつかあり、次のような漢字も作られている。
「ム」:音読みは、「シ」。訓読みは、「わたくし、ござ-る*」*「あ-る」の古語
「㠯」:*「以」の俗字あるいは異体字。
「耒」:音読みは、「ライ」。訓読みは、「すき」。
「已」:音読みは、「イ」。訓読みは、「や-む、すで-に、のみ、はなは-だ」。
「力」:音読みは、「リョク、リキ」。訓読みは、「ちから、つと-める」。
『漢字源』によると、「ム」は古い字形が鋤の形の他、
・三方から囲んだ形で、「私」の原字。
・肘(ひじ)を曲げた形で、厷(コウ)や肱(ひじ)の原字。
があるとしている。
「㠯」と「耒」を単漢字としてみることはあまりないと思うが、「耜(すき)」「耒耜(ライシ)」で、いずれも「すき」という意味で使われている。
「㠯」を見ると、「官」が頭に浮かんでくるが、「官」は、
「宀(ベン)」+「𠂤(タイ)」の省略形
なので、要注意!
「已」を「㠯」と並べてみていると、なんとなく似ているような感じがしてくる。字形の変化なのだろうと思う。
「力」を「すき」の象形文字とみるのは、『字統』と『新辞源』。一方、『漢字源』と『新漢語林』は、”力強い腕の形”、とみている。自分としては、鋤の形のほうが説得力があるように思う。
話は元に戻って、「以」について。
「以」は、上記の説明を元にすると、
「ム」+「人」
おそらく、「ム」の二画目が離れて、点になったんではないかと思う。これは私見だが、筆で文字を書くときのリズムや全体のバランスによるものではないかと考える。
「以」の訓読みに、「もっ-て、もち-いる」というのがあるが、これはおそらく、「すき」という農具を使用するというところからきているように思える。
農耕の歴史は古く、それに必要な道具も必要に応じて形が変わっていく。最初は人が鋤で耕していたが、道具の発達に伴い、牛馬に引かせる「犂(すき)」が作られた。
・固い土地を掘り起こす
・整地する
・草取りをする
などといった、作業の目的に応じて、農具の改良も行われていった。
農耕が我々にとって、いかに大切なものであるかが、道具、そして漢字を通して伝わってくる。
上記に挙げた漢字の意味も、農耕に関連して考えると、わかりやすい。ただ、「已」の意味が、なぜそういう意味を持つようになったのか、よくわからなかった。
「已」:音読みは、「イ」。訓読みは、「や-む、すで-に、のみ、はなは-だ」。
それで自分なりに出した答えは、
土地を耕す作業の中で、最後の仕上げに使われる「鋤(すき)」の形ではないか
である。これはあくまで私見だが、自分としてはけっこう納得できている。
以上、「以」について調べたことをまとめてみた。
かなりの時間を要し、「こんなことやってたら、漢検一級には一生受からないよなあ(笑)」と思ったりもするが、まあ、それも良しとしよう。
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