渥
右側の「屋」につられて、「オク」と読んでしまいそうだが、音読みは「アク」。
訓読みは、「あつーい」「うるおーい」。
意味は、
①厚(あつ)い。手厚い。
②うるおう(霑(テン)・濡(ジュ))。濡(ぬ)れる。うるおす。浸(ひた)す。
漬(つ)ける。
③うるおい。艶(つや)。光沢。美しい。つやがあって美しい。
④濃(こ)い。
⑤恵( めぐ)み。恩恵。 *『新漢語林 第二版』より抜粋。
熟語は、
・渥然(あくぜん):つやつやと光沢のあるさま。
・渥丹(あくたん):濃い赤色。
・優渥(ゆうあく):天子の恵が手厚いこと。
など。
渥は、「水+屋」。ここで問題となるのは、「屋」。
屋は、「尸+至」。
「尸」は、亡くなった人が手足を伸ばして横になっている象形文字。音読みは、「シ」で、訓読みは、「しかばね、かたしろ」などと読む。
「至」は、「矢」が逆さまになった形と「一」で、「一」はこの場合、数字ではなく、矢の到達点・線を表しているとのこと。矢が飛んでいって、地面に突き刺さった形で、会意文字あるいは指事文字。「至(いた)る」と訓読みし、ある場所や状態に行き着く、到達するというような意味。
『字統』によると、重要な建物を建てるときは占(うらな)いをし、矢を飛ばして、その矢の到達したところを選んでいたとのこと。でも、矢を飛ばす向きはどうやって決めるのか?、などと、占い方がよくわからない。勝手な想像だが、
・矢を飛ばし、矢の到達した場所が良いのか悪いのかの吉凶をなんらかの占いの
方法で占った。
と解釈すると、納得できる。
いずれにしても、亡くなった人が人生の最期を迎え、至る場所が「屋」なのではないかと思う。そう考えて、屋の意味をみてみると、
①いえ(家)。すみか(住処、栖)。
②やね(屋根)
③おおい(覆い)。屋根のように物をおおう物。『新漢語林 第二版』を参考。
『字統』によると、「屋は殯(*かりもがり)の建物をいう字である」とのこと。
(*亡くなった人を埋葬(まいそう)する前に、しばらく安置すること。)
これで、「屋」については理解できた。
では、なぜ、「屋」に「水」で、「うるおう」なのか? 手持ちの辞書の解説を読んでもなかなか腑に落ちない。それで、自分なりに考えてみた。
水は、雨や涙を表しているのではないか。
亡くなった人が安置されているところに降る雨。それはその死を悲しむ人たちの涙なのかもしれない。その人々の思いが亡くなった人に伝わり、心潤う。
こんなことを考えていたら、ひとつの言葉が目に留まった。
一雨潤千山
一雨千山を潤す(いちうせんざんをうるおす)。ひと雨だけでも、多くの山々をうるおす、という意味で、お釈迦様の教えに例えた言葉とのこと。
そして、この「渥」という漢字を目にして、真っ先に思い浮かんだのは、
渥美 清さん。「男はつらいよ」の寅さん。
つやがあって、美しく、そして、心に汚れがなくすがすがしい。
いい名前だな~。
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