挨・拶
音読みは、日常よく使われ耳にする、「あい・さつ」。問題なのは、訓読み。
「挨」は、「挨す、挨く、挨る」→「おす、ひらく、せまる」
「拶」は、「拶る」→「せまる」。
挨の意味は、
①うつ。背をうつ。
②おす。おしすすめる。おしのけて進む。
③せまる。たがいに近づく。
拶の意味は、
①せまる。
②指を五本の棒でしめる刑罰。指つめ。
③せめる。
・・・ということで、改めて、挨拶の意味を調べてみると、
①大勢の人が押しのけ合って進む。
②禅宗で、僧が問答をくり返すことをいう。
③【日本】人と会うときや別れるときなどに行う、礼にかなったことば・動作。
・・・という意味で、『字統』によると、「挨拶とは素性のよい語ではない」らしい。
そこで、挨拶それぞれの漢字の成り立ちをみてみると、
挨は、「手+厶+矢」。手と矢は両字とも象形文字で、手や矢そのものの意味を表している。問題なのは、「厶」。これは、カタカナの「ム」ではなく、音読みで「シ」。
農耕具の「耜(すき)」の右側の部分が元となった象形文字とみるか、腕で抱え込むような状態である指事文字とみるか、辞書によって分かれるが、この「厶」を含む漢字それぞれで判断していいのではないかと思う。
「挨」の場合は、手偏があるので、手に耜(すき)や矢を持っているとイメージしたほうが頭に入りやすい。
ちなみに、耜(すき)は鋤とも書き、こちらが一般的。スコップに似ているが、用途としてはスコップのように土をすくうのではなく、押し出すような感じで土を耕す。そうイメージすると、「挨」の意味もなんとなく頭に入ってくる。
以前、漢字検定1級の試験に、「すきやき」を漢字にしなさいという問題が出た。結局わからず、「こんな問題、出すなよな~!」と、悔しい思いをした。
で、正解は、「鋤焼き」。
江戸時代、鍋の代わりに農具の鋤(すき)の金属部分を火の上にかけ、焼いて食べたことから、「鋤焼(すきやき)」と呼ばれるようになったとのこと。
「拶」は、「手+巛+タ」。「巛」と「タ」はそれぞれ、「川」とカタカナの「タ」のように思えるが、『字統』によると、「巛+タ」は断首の形とし、「タ」の元の字形は「歹」で残骨の形。「死」を思い浮かべると覚えやすい。なので、「拶」の右側の旁は、亡くなっている人の、毛の残っている頭の骨の形とのこと。そう言われて、改めて「拶」という漢字の意味をみてみると、なるほどなあと、納得できた。
このように、「挨拶」の元々の意味がわかると、普段何気なく気軽に交わす挨拶も、また違った意味合いを持つように思えてきた。
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