読み:ひっぷのゆう
意味:考えることもなく、血気に逸(はや)るだけの勇気。
出典:『孟子』<梁恵王章句・下>
解説①:
この四字熟語は、中国が戦国時代だった頃、斉という国の宣王(在位:紀元前319ー紀元前301年)という君主が孟子に、隣の国との付き合い方について尋ねた場面に出てきます。
宣王:隣国と交際するのに、なにかよい方法があるだろうか。
孟子:たとえ、こちらが大国であっても、隣の小国を侮(あなど)らずに礼を厚くして交際することが肝心(かんじん)です。これはただ仁者だけができることです。また、反対にこちらが小国ならば、たとえいかに圧迫されてもよく堪(こら)えて大国に仕(つか)えて安全をはかることが肝心です。これはただ智者だけができることです。
こちらが大国でありながら、よく小国と交際する君主は、天を楽しむ人であり、こちらが小国であるのを知りぬいて大国によく仕えて安全をはかる君主は、天を畏(おそ)れる人です。天を楽しむ君主は天下を楽しむことができ、天を畏れる君主は自分の国を保つことができます。
宣王:まことに立派な言葉であるが、自分には少々悪い癖があり、とかく血気の勇に逸(はや)ってしまうので、仁者や智者のまねはどうもできそうにない。
孟子:王様、血気の小勇に逸ってはなりません。刀の柄(つか)に手をかけて相手を睨(にら)みつけ、『おまえなどに負けるものか』と力(りき)み怒鳴(どな)るのは、匹夫の勇というもので、せいぜい一人を相手にするだけのこと。王様にはそんな小勇ではなく、大勇をお持ちになっていただきたいものです。
解説②:
「匹夫之勇」の匹夫とは、ここでは「身分や程度の低い男。つまらぬ男。」という意味です。
「匹」という漢字からは、「一匹、二匹・・・」といった動物や魚、虫などを数えるときに使うというイメージがあるかと思いますが、中国での元々の意味は、「一対、一組を成すものであったり、布の長さの単位」です。「匹夫」とは「ひとりの男性」であり、「匹婦」は「ひとりの女性」ということを意味しますが、ここではその意味から派生して、「つまらぬ男」といった意味合いで使われています。
「匹」の成り立ちについては、出直し!漢字学習のコーナーで別に解説します。
解説③:
解説①にある「大勇」とは、もし自分の国が危機にさらされ、人民に危害が及ぶようなことがあれば、そんなときこそ怒りをもって敵を倒し、国を守り人民に安心を与えることのできる勇気のことを言うのだと思います。
子どもたちにとってはなかなかピンとこないかもしれませんが、例えば、友達や兄弟とケンカしそうになったとき、両親や先生に叱られたときに反抗しそうになったときなど、この四字熟語を思い出し、「匹夫之勇」なのか「大勇」なのか、考える習慣を身につけるといいように思います。
解説④:
「匹夫之勇」にある、「夫」について説明します。
まず、「夫」ですが、
「大(人の形)」+「一(飾り)」という組み合わせです。
各辞典には「正面を向いて立っている」「大の字に立っている」といった形容もありますが、「人の形」という理解でいいと思います。そして、「一」は漢数字の「いち」ではなく、頭に付けるなんらかの飾りのようで、それを付けていることによって、「一人前の男性」「成人の男性」「おとこ」を表わし、夫婦の場合、「おっと」を意味します。
ここでは、「男性、おとこ」の意味に使われています。
「匹」と「勇」については、出直し!漢字学習のコーナーで別に解説しますので、そちらをご覧ください。
*参考資料
『孟子』(上)小林勝人訳注、岩波書店 *岩波文庫

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