読み:せんなんこうかく
意味:仁徳者は難事を先にして利益は後のこととすること。人がいやがる困難なことを率先して行い、人がしたがる利益に直結するようなことは後回しにすること。また、まず苦労して後に功を得ること。いろいろ骨折ってから目的に到達することをいう。
出典:『論語』<雍也>
解説①:
この四字熟語は次のような文中にあります。
”樊󠄀遅 知を問う。子曰く、民の義を務め、鬼神を敬して之を遠ざくれば、知と謂(い)う可(べ)し、と。仁を問う。曰く、仁とは、難(かた)きを先にし獲(う)るを後にす。仁と謂う可し、と。”
<現代語訳>
”[弟子の]樊󠄀遅が、知者(賢人)とは何ですかと質問した。老先生はこうお答えになった。「民としてあるべき規範を身につけるように努力し、心霊を尊び俗化しない。そうであれば知者と言える」と。すると続いて、仁者(人格者)とは何ですかと質問した。老先生はおっしゃった。「仁者は、過程(困難への取り組み)を第一とし、結果は第二とする。[そうであるのを]仁者と言うことができる」と。”
『論語』加地伸行、講談社学術文庫より。
樊󠄀遅(はんち):
姓は樊󠄀(はん)、名は須(しゅ)、字(あざな)は子遅(しち)で、樊󠄀遅と呼ばれています。
孔子には3000人ぐらいのお弟子さんがいたそうですが、その中に「七十子(しちじっし)」と呼ばれる70余人の才能あるお弟子さんがいて、樊󠄀遅もその中の一人だったようです。
鬼神(きしん):
『コトバンク』にわかりやすい解説がありましたので、それをそのまま紹介します。
”中国において死者の霊魂をいう。人間は陽気の霊で精神をつかさどる魂と,陰気の霊で肉体をつかさどる魄(はく)との二つの神霊をもつが,死後,魂は天上に昇って神となり,魄は地上にとどまって鬼となると考えられた。鬼神は超自然的な力を有し生者に禍福をもたらす霊的な存在であり,その顕現の仕方によって善神と悪鬼との両様に分かれ,祭祀と祈祓(きふつ)の対象となる。また,天地造化の霊妙なはたらきそのものをも指すことがある。”
執筆者:麦谷 邦夫 出典:株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」
解説②:
今回の主な問題点は二つあります。ひとつは、
鬼神を敬して之を遠ざく
です。「遠ざく」とは「遠ざける」ことですので、「遠くへ離れさせる、近づかないようにする、親しまないようにする」ということです。そうすると「鬼神には近づかないようにすること、鬼神には親しまないこと」と理解してしまうかもしれません。しかし、上記の現代語訳を改めてみてみると、
心霊を尊び俗化しない
となっています。これをもう少し分かりやすく言い換えると、
死後の存在である鬼神を尊び敬いながらも、生きている者はその存在を超自然的なものとして安易に頼ったりしないこと
ということだろうと思います。
何か願い事が生じた場合、わたしもついつい神仏に頼ってしまいがちになりますが、ただ頼るだけではなく、精一杯の努力や行動をする、ということが言外にあるのかもしれません。
もうひとつの問題点は今回の四字熟語である
難きを先にし獲るを後にす
です。中でも、「難(かた)き」という言葉がポイントになるかと思います。漢字から単純に考えると「難しいこと、困難なこと」になると思いますが、そういったことを行うさいには、「苦労」が伴います。ですから、「成果や効果のことは考えず、苦労しながら難しい問題や困難な目標に取り組むこと」ということになると思います。
最初に示した四字熟語の意味は複数ありますが、どれが正しくてどれが間違いということではなく、それぞれの場面に応じて、解釈するということでいいと思いますが、
何か得られることを期待して行うということではない
ということだけは押さえておきたいポイントです。
解説③:
この四字熟語でも、「知」とは?「仁」とは?という問答がありましたが、それぞれひと言で言い表せるものではありませんので、それぞれの問いに対する答えのひとつという理解でいいと思います。
解説④:
文中に
敬して之を遠ざく
という言葉がありましたが、この表現から、「敬遠(けいえん)」という言葉が生まれたそうです。中国では、
*敬って遠ざける
という意味ですが、日本では、
*表面は敬っているように見せかけて、実はきらって遠ざける。うるさがって遠ざかる。
*野球で、投手が打者との勝負を避け、故意に四球で出塁させること。
というような意味で使われています。
解説⑤:
四字熟語「先難後獲」それぞれの漢字の解説ですが、「後」については以前調べましたので、そちらをご覧ください。
「難」「獲」については、それぞれ出直し!漢字学習のコーナーで解説します。
「先」については、わたしが調べたかぎりではどの辞典でも同じような解釈でしたので、『新漢語林 第二版』の解字を紹介します。なお、意味については省略します。
”会意。儿+之。儿は、人の象形。之は、足あとの象形の変形したもの。人の頭部よりもさきに踏み出した足あとのさまから、人よりもさきだつの意味を表す。”
「先」の一番古い(と思われる)字形は次のような字形です。

人の頭の部分が足になっているような字形ですので、ちょっと変な感じがしないでもありませんが、解説にあるように、上の部分を前として、下に描かれている人よりも一歩前に出ているイメージのようです。
尚、「之」の下に描かれている線は出発点を表わしています。
以上です。
*参考資料:
『「先」のはなし』かんじのはなし、yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/28253281.html
『論語における《鬼神》について―儒教の宗教的性格―』山下龍二、名古屋大学学術機関リポジトリ
https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/8274
『改訂新版世界大百科辞典ー鬼神(きしん)』コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E9%AC%BC%E7%A5%9E-50543#goog_rewarded
『七十子(しちじっし)』Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E5%8D%81%E5%AD%90
『鬼神の性格に關する一考察 ~禮記を中心として~』「漢學會誌」第十五号、大東文化大学
http://www.ic.daito.ac.jp/~oukodou/tyosaku/kisinnikansuru.html
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