243:三思後行

読み:さんしこうこう
意味:物事を行う場合に、よくよく考えたのちにはじめて実行に移すこと。
出典:『論語』<公冶長第五>

解説①:
 この四字熟語は次のような文章からできています。

”[孔子より百年も前の、季孫氏一族の一人である]季文子は、三度も考えた上で実行したとのことであった。老先生は、この話をお聞きになり、「[なんでも熟慮する必要はなかろう。ふつうのことなら]二度、考えを入れれば、それでよかろう」とおっしゃった。”
*『論語』加地伸行、現代語訳より引用。

 この文章は短いこともあって、いろんな解釈がある、ようですし、いろんな解釈ができる、とも言えるかと思います。

 前半では、”季文子”の行いを肯定的にとらえています。
 一方、後半では、孔子(老先生)がその行いに対して批判的な立場をとっているような印象を受けます。

解説②:
 孔子がなぜこのようなことを言ったのか、その時代背景を整理してみます。
・魯(ろ)(紀元前11世紀~紀元前249年)
・春秋時代(紀元前770年頃~*紀元前403年)*春秋時代の終わりは諸説あります。
・季文子(生年不詳~紀元前568年)
・孔 子(紀元前552/551年~紀元前479年)
 どちらも春秋時代に生きた人物ですが、年表をもとに推測すると、季文子が亡くなってから16~17年後ぐらいに孔子が生まれています。

 この春秋時代という名称は、周代に成立した儒教の経典の歴史書『春秋』から取られていて、当時の王朝でいうと、東周時代という言い方もあります。
 この時代は周王朝の力が弱くなってきて各地に存在する諸侯の力が強まっていた時代です。”魯(ろ)”においては三桓(さんかん、孟孫氏、叔孫氏、季孫氏)と呼ばれる公族の力が増していたとのことですが、中でも季孫氏の力が強かったとのことです。
 孔子は魯の生まれで晩年は魯で過ごしました。殷を滅ぼした周の武王の弟で礼楽の基礎を築いたとされる周公旦(しゅうこうたん)を理想の聖人と尊敬している孔子にとって、周王朝を脅(おびや)かす諸侯の存在は好ましくないもので、季孫氏一族も例外ではなかったのかもしれません。

 このような背景もあって、歴史的評価が高い季文子であっても、季孫氏一族に対する感情から、批判的ともとれることを言ったのかもしれません。そして、季文子に対する個人批判とあからさまに受け止められないように、「なんでも」「ふつうのことなら」といった条件を加えた上で、一般的なこととして言っているかのように思わせたのかもしれません。

解説③:
 「三思後行」それぞれの漢字の解説ですが、「三」と「行」はここで解説します。「思」「後」については、出直し!漢字学習のコーナーで解説しますので、そちらを見てください。

(サン、み、みっ-つ)
指事文字で、三つの横線で数字の「3」を表わします。また、「3」以外にも、「しばしば、たびたび、何度も」といった意味も表わします。

(コウ、ギョウ、い-く、ゆ-く、おこなーう)
十字路を描いた形で、みち、みちをいく、動作する(おこなう)などの意味を表わします。
ちなみに、一番古い(と思われる)字形です。

「三」「行」共に、成り立ちや意味について特に問題となる点はないと思います。

教えるときのポイント:
 解説①②にあるように、この四字熟語の元となっている文章が簡潔であるがゆえに、解釈がさまざまです。例えば、

・悪いことをする人は、悪いことをする前に後のことを考えないから、悪いことをしてしまう。
 (行動を起こす前に、よく考えて行動すれば、間違いが少ない。)
・と言いながら、あまり考えすぎると、却(かえ)って悪い判断をしてしまいがち。
・よく”考える”ことはいいことだが、ただ単に”思う”だけを重ねても意味がない。
・何度も考えて結論が出ているにもかかわらず、行動に移さないのは優柔不断。
 などといった解釈が生まれます。

 ようはその場面場面に応じた対応をすることが大切になってくるわけですが、適切な対応ができるようになるためには、やはり知識や経験が元になると思います。
 なにか事に対するときに、この「三思後行」という四字熟語を思い出し、どう対応したらいいのか考える習慣が身につくといいと思います。

*参考資料:
『Wikioediaー孔子ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%94%E5%AD%90
『Wikioediaー魯ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%AF
『公冶長第五 19 季文子章』Web漢文大系
https://kanbun.info/keibu/rongo0519.html
『論語集注』(朱熹撰)の日本語訳(公冶長第五 中篇)―『論語集注』を主とする朱子の『論語』解釈 ―、孫 路易、岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要第五十三号(二〇二二・三)
https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/6/63398/20220421152108960440/hss_053_(021).pdf
『中国地図|中国まるごと百科事典』
https://www.allchinainfo.com/map/
*春秋時代の地図です。



 
 

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