四字熟語「歳寒松柏」の「松」と、松に含まれる「公」について調べました。
まず「松」ですが、音読みは「ショウ」で、訓読みは「まつ」です。
意味は樹木の「まつ」のことですが、どの辞書にも「まつ」の特徴の他、人との関わりについて書いてあります。今回は『角川新字源 改訂新版』の解説を紹介します。
”まつ。マツ科の常緑針葉樹。柏(ハク、ひのきやこのてがしわなどの常緑樹)とともに墓地に植えられる。樹齢が長く葉の色を変えないところから、節操・長寿などの象徴とされ、古来、縁起のよい木として尊ばれる。”
この『角川新字源 改訂新版』と、先に調べをすませている「松」と「柏」*植物篇の内容とを合わせて、「松」の成り立ちをみていきます。
まず、「松」の組み合わせですが、
「木」+「公」
でいいと思います。
「木」は・・・?って、木は木としか言いようがなく困ってしまいましたが<苦笑>、さすが国語辞典です。ちゃんと説明されていました。
”地上部に堅く木質化した幹をもつ植物の総称。”『明鏡国語辞典』
だそうです。
次に「公」ですが、常用の音読みは「コウ」で、常用の訓読みは「おおやけ」です。
意味は『新漢語林 第二版』を参考にしました。
①表むきなこと。あからさまなこと。公然。
②かたよらず正しいこと。公平。公正。
③おおやけ。個人のことでなく、国家・社会などに関すること。みなが共にすること。
④きみ。天子。諸侯。国君。主人。
⑤五等爵(公・侯・伯・子・男)の第一位。
⑥最高位の官名。三公。
⑦祖父・父・長老・年長者などに対する敬称。転じて、他人に対する敬称としても用いる。
この「公」の意味を大きく二つに分けると、④~⑦は身分や地位などで、①~③はその身分や地位にある人の行いであるように思います。
「松」は針葉樹類の代表的な木であることや、樹齢が長く葉の色を変えないところから節操・長寿などの象徴とされ、古来、縁起のよい木として尊ばれて墓地にも植えられていたということから④~⑦のような意味を持つ「公」が当てられたのではないかと推察されます。
以上で、「松」がなぜ「木+公」という組み合わせになったのかについての解説を終わりますが、「公」の成り立ちについても調べましたのでその記録を残しておきたいと思います。
わたしが調べたかぎりでの、成り立ちの主な解釈をまとめてみました。
ア)「八」は、そむく(背く)。「厶(シ。私の原字。わたくし)」。私的なことの反対から、「おおやけ」の意を表す。
イ)「八」は、開く、あるいは通路の象形。「口」は場所を示す。入り口を公開・共有する意。
ウ)「八」は取っ手、「口」は容器を表し、「甕(かめ、酒や水を容れる大きい器)」の象形。
エ)「八」は「分」で分ける意。「口」は物・場所などを抽象化した形で、「公」は「口」を平等に分けること。
オ)宮廷の中の儀礼を行う式場の平面形。広場を示す「囗」の上部に左右の塀を二本の直線で示している。
以上の解釈を頭に入れて、「公」の一番古い(と思われる)字形をみてみます。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。

う~ん、どうでしょう。どれも「そう言われればそう見える」という感じでしょうか。ただ、アについては「ム」ではないため、この時代の解釈ではないように思います。
それと、ウの「甕(かめ)」のようには見えないと思うんですが、時代が進んだ頃の字形

を見ると、まあ、そう見えなくもないかなあとは思います。
「甕」は「瓮」とも書かれ、『漢語多功能字庫』にあった朱芳圃という人の解釈では、この字形は「かめ(瓮)」の元々の字形ではないかとのことでした。ちなみに「瓦」は屋根の「かわら」の意味もありますが、素焼きの「土器(どき)」の意味もあります。
それから『小學堂|字形演變󠄀』にしかない古い字形には次のようなものもあります。


この二つの字形を見るかぎりでは、「エ」の解釈がぴったりのように思えます。
ちなみに『「公」のはなし:かんじのはなし』によると、”領土・領地の分割”ではないかと解釈されていて、なるほど!と思いました。
以上の成り立ちの解釈とその意味と照らし合わせてみると、領土・領地の分割ができるという点ではまず④が当てはまると思います。また領土の分割に限らずに「エ」のような解釈であれば、それができる立場にある人たち⑤~⑦も当てはまってきます。そして、それは①~③の意味にあるように、おおやけの場で公然、公平、公正に行われるということだろうと思います。
このように、イ~オの解釈は一見(いっけん)すると異なってるように思えますが、それぞれの言わんとしていることに関連性があるように思いました。
ただ、イ~オの解釈の中で「ウ:甕(かめ)の象形」というのは異質のように感じました。
いろいろと調べた結果、自分なりの答えが見つかりましたので、備忘録として残しておきたいと思います。
以下、わたしの勝手な推論です。
古代中国の”器”というと、土器(陶磁器)や青銅器があると思いますが、殷周時代の青銅容器は、単なる酒器や食器ではなく、宗教的儀礼のための祭器であり、後には器の所有者の地位や権威を象徴する政治的・社会的意味も担っていたそうです。
青銅器は当時においては貴重品であり、鋳造には貴重な金属原料と燃料、多くの労働力と高度な技術とを要したため、青銅器を所持できる者は強大な権力をもった支配者層に限られていたとも言われています。
青銅器は殷時代後期から西周時代前期(紀元前1300年頃 – 950年頃)が最も盛んに作られていたとのことですから、この頃に「公」の一番古い(と思われる)字形の他に、地位や権力の象徴とも言える青銅で作られた”器”の形が字形となったのかもしれません。

しかし、その後、青銅器の製作は全体的に衰退し、作られたものも燭台・香炉といった日常生活用品が主で、かつて青銅器が担っていた宗教的役割や封建的身分の象徴といった意味合いは消滅したとのことですから、この字形もその時代背景と共に意味をなさなくなり、元々の「公」の一番古い(と思われる)字形だけが使われるようになったのだと推察しています。
以上のような流れを考えると、「公」は元々、甕の象形であるとした朱芳圃という人の解釈も納得できました。
*参考資料
『小學堂|字形演變󠄀』<公>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=92
『漢字源流|中華語文知識庫』<公>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%85%AC
『「公」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/24797158.html
『「松」のはなし(2024年6月23日):かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/2024-06.html?p=2
『Wikipediaー松ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84
『Wikipediaー木ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8
『木材利用相談Q&A100ーQ5木の分類について教えてくださいー』日本木材総合情報センター
https://www.jawic.or.jp/qanda/index.php?no=5
『Wikipediaー中国の青銅器ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9D%92%E9%8A%85%E5%99%A8
『Wikipediaー中国の陶磁器ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%99%B6%E7%A3%81%E5%99%A8

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