四字熟語「遠慮近憂」の「慮」について調べました。
意味については、「深く考える。あれこれ考える。思いをめぐらせる。」という理解でいいと思います。
問題は成り立ちです。だいたい次の二つに分かれるようです。
a.「虍󠄀」+「思(*囟+心)」
b.「𧆨」+「心」
*「囟(シン)」は幼・小児の頭(脳)の象形。
成り立ちに不明な点があるためか、見方に違いが生じてしまっています。
「a」は、「とらかんむり(虍󠄀)」に「思う」という組み合わせですから、単純に考えると、動物の「虎(とら)」の特徴や生態が背景にあるように思います。『Wikipediaートラー』には、次のような記述がありました。以下、引用します。
”中国では百獣の王といえば虎であり、獰猛な野獣としての虎は古くから武勇や王者のイメージとして受容され、軍事的シンボルや建国・出生譚、故事成語などに結びついている。虎と人間の生活が密接だった古代の中国や朝鮮など東アジアでは、虎をトーテムとして崇拝した氏族があり、その名残りから魔除けや山の神として一般的な崇敬の対象になった。虎は龍と同格の霊獣とされ、干支では年の始めに当たる寅に当てられている。”
”トラが健康な雄の成体ゾウを殺した事例では、トラはまずゾウの後ろ足を攻撃し群れから引き離し、その後4日間執拗にゾウをつけ回し食事や水を飲む暇を与えず、衰弱したゾウにとどめを刺すという戦略的なものであった。”
このような特徴や生態から生じたイメージを「慮」という漢字で表わしたのではないかと推察しました。
一方、「b」にある「𧆨」は「盧(ロ)」という漢字から「皿」を省略した字形とされていて、「飯を盛る容器、壺(つぼ)のような形をした器、火を入れる器」などといった、いわゆる「容器、物を入れる器(うつわ)」のことを意味する漢字です。
では、この「器」を意味する漢字「盧」の、甲骨文字の二つの例をみてみます。*『漢語多功能字庫』より。


どちらも「盧」の元となっている字形です。「田」のように見える部分が器を表わしていて、その下は器の脚の部分になります。
二つ目の上の部分は、虎が左の方を向いて口を開けている形だと思います。
なぜ、虎が加えられたのかですが、おそらく文様だと思います。『Wikipediaー中国の青銅器ー』に次のような記述がありました。
”中国古代青銅器の特色は、器形とともに、その表面を覆い尽くす複雑精緻な文様にある。これらの文様モチーフの大部分は、龍・鳳などの想像上の動物と、虎・象・羊などの実在の動物を含む動物文である。なかでも殷周時代の青銅器の主文様として多くみられるものは饕餮文(とうてつもん)と呼ばれる、突出した2つの眼を特色とする獣面文である。当時の人々の鬼神崇拝、自然への畏怖、動物のもつ強大な力に対する崇拝がこうした動物モチーフの背景にあったとされる。”
器に虎が刻まれたことによって、その器は単なる器ではなく、崇拝の対象になったのではないかと考えることができると思います。そして、器の意味を表わす「皿」ではなく、「心」にすることによって、「慮」の意味になったのではないかと考えました。
aとbのどちらが正しいのかまで結論付けることはできませんでしたが、いずれにしても「慮」の持つ意味は伝わってくるように思います。
最後になりましたが、「慮」は「リョ」と音読みし、主に熟語の後ろについて「考慮」「配慮」「熟慮」「苦慮」などといった言葉になっています。
また、「おもんぱかーる」と訓読みして、「深く考える。あれこれ考える。思いをめぐらせる。」というような意味を表わします。
「おもんぱかーる」は「おもいはかる(思い量る」の読みが変化したものですが、わたしは「ば」と読む方が自然な感じがします。しかし、一般的なのは「ぱ」のようです。
いろいろと調べてみましたが、結局わかりませんでした。それで、いつものわたしの勝手な推論ですが、もしかしたら、「~ばかり」との混同を避けるために、「ぱ」と発音するようになったのではないかと思っています。
以上で「慮」についてを終わります。
*参考資料
『漢語多功能字庫ー字頭「盧」』
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E7%9B%A7
『「慮」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/10957958.html
『Wikipediaー中国の青銅器ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9D%92%E9%8A%85%E5%99%A8
『Wikipediaートラー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9
『虎のイメージに関する一考察 ─中国のことばと文化─』鄭 高咏、愛知大学No.12
https://taweb.aichi-u.ac.jp/tgoken/bulletin/pdfs/No12/07-Zheng.pdf

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