「博文約礼」という四字熟語にある「文」について調べました。
まず、意味の確認です。今回は『新漢語林 第二版』を参考にしましたが、『角川新字源 改訂新版』もほとんど同じです。
一
①あや。模様。かざり。いろどり。外見の美。外面的修飾。
②あらわれ。現象。
③すじ。すじみち。
④のり。法律。礼儀。
⑤もじ。文字。
⑥ことば。語句。文句。
⑦ことばをつづって、まとまった意味を表すもの。特に文章をいう。
⑧ふみ。書いたもの。文書。書物。手紙。
⑨学問。芸術。道徳文化。
⑩よい。美しい。みやびやか。
⑪仁徳。めぐみ深い徳。
二
①かざ-る。
ア)美しくする。りっぱにする。
イ)うわべをかざる。あやまちをとりつくろう。
②いれずみをする。
次に各辞典の成り立ちをみてみます。
『新漢語林 第二版』
・象形。人の胸を開いて、そこに入れ墨の模様を書くさまにかたどり、模様・あやの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
・象形。胸に文身(いれずみ)をほどこした人の形にかたどり、「あや」の意を表す。ひいて、文字・文章の意に用いる。
『漢字源 改訂第五版』
・象形。もと、土器につけた縄文(ジョウモン)の模様のひとこまを描いたもので、こまごまとかざりたてた模様のこと。のち、模様式に描いた文字や、生活のかざりである文化などの意となる。紋の原字。
『常用字解』白川静
・象形。文身(入れ墨)の形。正面を向いて立つ人の胸部に、心・×・Vなどの形の入れ墨を書き加える。
以上の、意味と成り立ちを大まかにみてみると、二の②の「いれずみをする。」が他の意味とは異質の感じがしますが、成り立ちをみると、『漢字源 改訂第五版』を除けば、入れ墨が「文」の成り立ちのもとになっています。
そこでまず、「文」の古い字形をいくつか見てみることにします。
*注:年代順ではありません。





『常用字解』白川静氏によると、これらのすべてを入れ墨とみています。『新漢語林 第二版』を除くその他の辞典においても、入れ墨が成り立ちの元となって最初に示した意味につながっていると解釈されているようです。
一方、『漢字源流|中華語文知識庫』ある「文」の解説をDeepLで翻訳して読んでみると、最初の二つの字形は「紋様が交錯する形」としています。そして三つ目からの字形は、「心」と「文」の組み合わせとみていて、「心で美徳を表わしている文の異体字」とみているようです。そして、この「心」を伴った「文」がその後に続く文の字形の元となっているとのことでした。
次のような古い字形もありますが、『漢字源流|中華語文知識庫』によると、この黒い点は装飾的なものであって、何か特別な意味を与えたものではないとのことでした。

わたしには「文」の中に描かれたものが入れ墨であるかどうか、その真偽はわかりませんが、ひとつ言えることは、入れ墨かどうかが重要ではなく、「文」が人の姿を表わし、その胸の部分に「心」が描かれていて、それが「文」の意味の元となっているということが重要であるように思います。
以上、各辞典類を元にした「文」についての解説でした。
では、ここからはいつものわたしの勝手な推論です<苦笑>。
「文」の一番古い(と思われる)字形のひとつに、胸のところに何も描かれていないものがありますが、何も描かれていない空白の部分こそが「心」を表わしているのではないかと考えました。
しかし、何も描かれていないために、そこに「×」が描かれて、「入れ墨をした人」という意味に解釈されました。そのため、本来表わそうとしていた意味をはっきりさせようとして「心」を描いたのではないかと思います。
あるいは、もしかしたらその「×」も「心」を表わそうとしていたのかもしれません。なぜかというと、かたい甲骨に鋭利なもので文字を刻む場合、曲線的なものは描きにくく、どうしても直線的になってしまうからです。
いずれにしても、時代が進んで「文」の胸の部分は空白になってしまいました。何も描かれてはいませんが、字形の変遷を感じさせる空間ではあります(^_^)。
以上で「文」についてを終わります。
*参考資料:
『漢字源流|中華語文知識庫』<文>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E6%96%87
『小學堂|字形演變󠄀』<文>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=132
『「入れ墨」と漢字ー古代中国の思想変貌と書ー』松宮貴之、雄山閣
DeepL翻訳
https://www.deepl.com/ja/translator

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