「匹」は馬のお尻?

 「匹夫之勇」という四字熟語にある「匹」ですが、てっきり、動物や魚、虫などを数えるときに使われるだけの漢字だとばかり思っていました。意味や成り立ちが興味深い反面、各辞典にある成り立ちに疑問も生じました。自分なりにその成り立ちについて考えましたので、備忘録として残しておきたいと思います。

 まず意味について『漢字源 改訂第五版』を基本にしてまとめてみました。
①たぐい。一対をなす相手。また、二つで一組となるもの。仲間。同類。
②身分が低い。卑(いや)しい。
③布の長さの単位。一匹は布のふた織り、つまり四丈(約九・四メートル)。▽昔の布は二丈(約四・七メートル)でひと織りであった。
④中国では牛や馬など、日本では動物や魚、虫などを数えるときの単位。

 次に成り立ちについてです。いろいろな解釈があって定説はないようですが、大きくふたつの説に分かれるようです。

1)馬を前あるいは後ろから見たときの形という説

2)布を垂らした、あるいは何かに掛けてある形という説

1については3つの見方がありました。
・並んでいる馬の胸もとのあたりを複線でかいた形。『常用字解』白川静
・馬の尾の象形。『新漢語林 第二版』
・馬の尻が左右二つに分かれてペアをなしていることから。『漢字源 改訂第五版』

2については、
・布ふた織りを並べてたらしたさま。『漢字源 改訂第五版』
・布二反をかけてある形にかたどる。『角川新字源 改訂新版』
表現は違っていますが、ほぼ同じような感じですね。

『漢字源 改訂第五版』には1と2両方の見方がありますが、おそらくその根拠となる字形が異なっているからかもしれません。

 では、その字形を2つみてみます。最初は金文という字形で、その下は時代が進んで篆文という字形です。

馬の形としている場合は、おそらく後者の篆文の字形からだろうと思います。そして、布の形としている場合は最初の金文かもしれません。いずれにしても、時代によって字形が変わっていきますから、どの字形を根拠にするかで見方も変わってくるように思います。

 では、ここからはわたしの勝手な推論です<笑>。
 わたしは、上にある最初の字形から

馬の繁殖期に見られる”交配”の様子を表わした形

ではないかとみました。左側がオス(牡)で右側がメス(牝)です。単純な線で描かれているのは、”交配=一組、ペア”という意味に視点を置きたいため、あえて抽象化したのではないかと思います。今の時代でいうと、”ピクトグラム”のような感じでしょうか。

 なぜそう考えたのか、ですが、「①たぐい、二つで一組(ペア)となるもの」という意味を漢字で表わそうとしたとき、古くから家畜として飼われている馬が一番身近な存在で、その行動について関心が高かったからだろうと考えたりしていました。
 しかし、なぜ、そういう意味を表わす漢字が必要だったのかがわかりません。わからないまま、あれこれ調べていたところ、次のような資料が目に止まりました。

 なぜ馬を匹と数えるのかについては、『侯鯖録(こうせいろく)』という書物に次のような説があると紹介されていました。
(1)馬を遠望して一匹の絹と見間違えたから。
(2)馬の判別方法が人の判別と似ているから。
(3)馬は夜目が利き、前方四丈(一匹)を見通すから。
(4)馬の縦横を測ると一匹の長さだから。
(5)死んだ馬を売ると絹一匹に値したから。
(6)諸侯が互いに「乗馬束帛」を贈ることから、馬と一匹の帛(ハク、きぬ。絹織物の総称)が等価と考えられるから。  
「書 評(『古代における文字文化と数量表現』三保忠夫著)高橋久子『日本語の研究』第 19 巻 3 号 2023.12.1」より。

 この6つの説の中の6番。この説がヒントとなり、次のように考えました。思考過程を整理する上で箇条書きにしてみます。

・古くから人と馬は関わりがあり、狩猟・牧畜・農耕・交通・軍事など幅広く利用されていた。
・馬をはじめとする家畜は取り引き(売買?)のため数を示す(記す?)必要があった。
・そのため、馬を元にその数を表わす単位として、「匹」という漢字が作られた。
・一方、古代から衣服は必要不可欠なものであり、その過程で絹織物が作られるようになった。
・絹織物は珍重され価値も高く、取り引き(売買や贈答?)も行われ、数を示す(記す?)必要があった。
・絹織物は高価であることから、家畜の中でも高価な馬一匹分と同じ価値を持つ長さを示そうとし、「匹」という単位が用いられるようになった。

 以上の拙論は、「匹」という漢字が馬を元にして作られた漢字というのが前提になります。なので、「匹」が布の形を元にして作られたとすると、上記の考えは成り立たなくなります。

 そこで、「匹」が布の形を元にして作られたと仮定して、その成り立ちの過程も考えてみることにします。

・古代から衣服は必要不可欠のものだった。
・衣服の素材は、動物の毛や皮(革)、植物の繊維、そして、蚕(かいこ)の繭(まゆ)から作る繊維に大きく分けられ、数えるときの単位も素材別に考えられた。
・参考資料によると、布には「匹(疋)、丈、端、段、尺、丁、寸」といった単位があり、その中で、「匹(疋)」が使われているのは、「絁(つむぎ、古代の絹織物のこと)」でした。
・「絁」の素材である「絹(きぬ)」は蚕から作られる繊維が使われていて、それが糸となって束ねて置いてある、あるいは掛けてある状態を漢字で表わそうとした。

 う~ん、最後がこじつけのような感じになってしまいました<苦笑>。

 ・・・ということで、わたしはやはり、「匹」は「馬の繁殖期にみられる”交配”の様子を表わした形」ではないかと思います。

 こんなことを考えてまで、「匹」の成り立ちをたどらないといけないのかと思ったりもしますし、「匹」は一匹二匹といった、動物や魚、虫などを数えるときの助数詞だとだけ覚えていればいいんじゃないかとも思ったりもしましたが、次の熟語を見て、考えを改めました。それは、
・匹敵(ひってき)
です。この場合の「敵」は敵、味方の敵ではなく、「相手」という意味合いになります。そして、匹敵するという熟語になると、同じぐらいの力を持った相手というような意味合いとなり、「匹」の意味にもある「同じ仲間、たぐい」と合わせて、「匹敵する=力が同じくらい(の相手)」となります。
 こんなとき、「匹」をただ単に一匹二匹の「匹」と数えるだけと理解していると、「匹敵」の意味がわかりません。
 成り立ちを元にして意味を理解していると熟語の理解もしやすい例だと思います。

*参考資料
「書 評(『古代における文字文化と数量表現』三保忠夫著)高橋久子『日本語の研究』第 19 巻 3 号 2023.12.1」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihongonokenkyu/19/3/19_18/_pdf/-char/ja

[研究ノート]『 日本古代における布の単位「端」と「段」について』大隅亜希子国立歴史民俗博物館研究報告第 218 集 2019 年 12 月、国立歴史民俗博物館学術情報リポジトリ
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/records/2513

目からウロコ!数え方のナゾ~ 『数え方の辞典』収録のコラムより ~
第12回「匹」と「頭」の意外なルーツ、飯田朝子、ジャパンナレッジ
https://japanknowledge.com/articles/kze/column_kaz_12.html



 

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