「難」について

 四字熟語「先難後獲」の「難」について調べてみました。

 調べる前、「そんなに難しくはないだろう」と思っていたら、”難”しかったです<苦笑>。成り立ちに不明な部分があるためか、諸説あります。どれが正しいのかはわかりませんが、その諸説の中でわたしが納得している説をまず紹介しながら、いつものわたしの勝手な推論を加えていきたいと思います。そして、最後に他の説を紹介したいと思います。

 まず、「難」の組み合わせですが、
「𦰩(堇)」+「隹」
になります。
 「隹」は「スイ、サイ」と音読みし、漢字の構成要素となって、いわゆる「とり(鳥)」に関することを表わします。元々は「小鳥、尾の短い鳥」の意味で、「鳥」とは区別されていたようです。
 なお、「隹」の成り立ちなどについても長くなりそうなため、改めて解説したいと思っています。

 では、問題となる「𦰩(堇)」についてです。この字形の一番古い(と思われる)ものを二つ見てください。

 この字形は『漢語多功能字庫』からお借りしたもので、甲骨文です。この字形がどう分析されているかですが、次のような解説が『漢語多功能字庫』にありましたので、紹介します。

”「火」を従え、口を開けて上を向き、火の上に身を置く人の形を象る。『説文』の「熯」と同字であり、焚火と土と十と山と人を組み合わせて牲(いけにえ)を捧げ雨を乞うことを表し、干ばつを意味する。” *DeepLで中国語原文を日本語に翻訳した文です。

 そして、これがどのように変化していったのかについての解説が続きます。

 ”甲骨文字は「火」の形状を部首とし、隷書変遷後、音韻に基づき二形に分かれる。一つは真韻に入る字で、隷書では「堇」と書き、謹・瑾・僅など。もう一つは元韻に入る字で、隷書では「𦰩」と書き、嘆・歎・難など。真韻と元韻は音近いため、音転が可能である。(唐蘭・徐中舒参照)” *DeepLで中国語原文を日本語に翻訳した文です。

 ”初期金文は甲骨文を継承し、火字を従うが、下部の「火」は後に元の形を変えて「土」と作られ、これが小篆「堇」の字の基となった。春秋後期以降の金文は火字に従わず黄字に従い、『説文』の古文と同じである。” *DeepLで中国語原文を日本語に翻訳したものを修正しています。

 以上の解説を頭に入れて「難」の意味を見てみます。今回は『角川新字源 改訂新版』『漢字源 改訂第五版』を参考に、わたしなりにまとめました。

①鳥の名。
②むずかしい。やりづらいさま。手に負えない。うまく物事が進まない。
③わざわい(災い)。うれい(憂い)。日照り・水攻め・火あぶりなどのつらい目。
④つらい戦争。あらそい(争い)。
⑤あだ、かたき(仇・敵)
⑥人の非を責める。そしる(誹・謗る)。なじる(詰る)。
⑦疫病神を追い払う儀式。おにやらい。追儺(ツイナ)。
⑧数多く柔らかいさま。葉の茂るさま。盛んなさま。

 ①の鳥の名という意味を意外に思うかもしれません。わたしもそうでした。『漢字源 改訂第五版』『新漢語林 第二版』にその意味はなく、白川静氏の『字統』には「難を鳥の名に用いた例がなく、また堇声というも声が合わない。」とありました。
 一方、『角川新字源 改訂新版』には意味の一番目に鳥の名とあり、『漢字源流|中華語文知識庫』『漢語多功能字庫』にはそれぞれ、
・「隹」と「堇」の二字で構成される。隹に従い、鳥禽類であることを示す。
・「難」は本来鳥の名であり、「隹」は意符として鳥類を表し、声符として後に「難易」の難に仮借される。
とありました。*DeepLで中国語原文を日本語に翻訳した文です。

 以上の解説をふまえ、「難」はおそらく鳥の一種だと思います。「隹」が鳥であること、「𦰩」はいけにえ(牲、生贄)であることから、

いけにえとなった人の叫び声のような鳴き方をする鳥のことを「難」

と呼んだのではないかと思います。
 そして、②から⑦までは①から派生したものだと思います。
 ⑧についてはわかりませんでしたが、もしかしたら「難」という鳥の生態や特徴からそのような意味が生まれたのかもしれません。

 以上、わたしの勝手な推論でした。

 最後にいくつかの辞典にある成り立ちの解説を付して終わりたいと思います。

*「難」の解字、又は成り立ち
『漢字源 改訂第五版』
会意。「(動物を火でやく、かわかしてこちこちにする)+隹(とり)」。鳥を火であぶることをあらわし、もと燃ネン(もやす)と同系のことば。やけただれる火あぶりのようにつらいことの意から転じて、つらい災害ややりづらい事などをあらわす。
『新漢語林 第二版』
会意。𦰩(堇)+隹。堇は、火などのわざわいにあって祈るみこの象形。隹は、とりの象形。わざわいにでくわして鳥をそなえて祈るさまから、かたい・わざわいの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
もと、𪄿と書き、形声。意符鳥(とり)と、音符堇キン→ダン(𦰩は変わった形)とから成り、鳥の名を表す。艱カンに通じ、借りて「かたい」意に用いる。旧字は、意符が隹に変わったもの、教育用漢字は、さらにその省略形による。
『常用字解』白川静
会意。もとの字は難に作り、𦰩(かん)と隹(すい)とを組み合わせた形。𦰩は金文の字形では火矢(ひや、火を仕掛けて射る矢)の形であるから、難は隹(とり、鳥)を火矢で射る形で、鳥を驚かしなやますの意味となる。火矢で鳥を射ることは儺󠄀(だ、鬼やらい)の儀礼と関係があり、鳥を使う占いとして行われたものであろう。
『Wiktionary』
形声。「隹」(鳥)+音符「𦰩 /NAN/」。鳥の一種を指す。のち仮借して「むずかしい」を意味する漢語{難 /nan/}に用いる。会意文字として解釈する説があるが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である。

*参考資料
『漢語多功能字庫』香港中文大学文学院哲学部人文電算研究中心
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/web/
『「難」のはなし』かんじのはなし、yumemivision、2023年5月17日
https://yumemivision.blog.jp/archives/2023-05.html?p=3
「1433「難」は「鳥を驚かし悩ます」の意味か?」『常用漢字論―白川漢字学説の検証』
https://gaus.livedoor.biz/archives/22348702.html

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