「聴」と「聖」「聞」

 四字熟語「道聴塗説」の「聴」について調べてみました。

 タイトルに「聞」があるのはなんとなくわかると思うのですが、「聖」については、なぜ?と思う人もいるかもしれません。わたしもその一人でした<苦笑>。

 今回は成り立ちを中心に話を進めますが、説明の都合上、「聞く」「聴く」は”きく”と表わします。
 また、辞書やネットなどには日本語での「聞く」と「聴く」の意味や使い分けについての解説がありますが、漢字の成り立ちを考える上で混乱を生じる可能性がありますので、ここではその違いについては特にふれないことにします。

 ではまず、タイトルにある「聴」「聖」「聞」の一番古い(と思われる)字形を示します。なお「聴」の場合は「聽󠄀」という旧字体が元になります。

聴(聽󠄀)*Wiktionaryからお借りしています。

一番古い(と思われる)甲骨文字のひとつです。「耳」と「口」の組み合わせです。左側に耳があり、右側に口が二つあります。

 *『漢語多功能字庫』からお借りしています。

一番古い(と思われる)甲骨文字のひとつです。「耳」と「口」と「人」の組み合わせです。

 *『漢語多功能字庫』からお借りしています。

一番古い(と思われる)甲骨文字のひとつです。「耳」と「手」と「人」の組み合わせです。「人」は、人が地面や床に膝(ひざ)をついて体を丸めて小さくなっているような姿で、「手」を耳のそばに当てているように見えます。

 「聴󠄁(聽󠄀)」「聖」「聞」それぞれ元となる字形に違いはありますが、基本的にはどの漢字も「耳」と「口」を組み合わせて、”きく”ことを表わしています。

 では、何を”きく”のかというと、神の声だと思われます。
 白川静氏の『常用字解』によると、「聴」は神の声を”きく”ことができることで、「聖」は神の声を”きく”ことができる人と解説されています。

 この白川静氏の解説を元にして、”きく”という字形の変遷を箇条書きにまとめてみました。

・当時、”きく”ことは神の声を”きく”ことだった。
・時代が進み、神とは別に、聖人や賢人、君子や王といった、実在する人たちの声を”きく”ことを表わす漢字が作られた。
・更に時代も進んで、いわゆる一般的に”きく”ことを表わす必要性も出てきた。

 非常におおまかな流れですが、このような背景があって、字形が変化していったのではないかと推察しています。

 では、その流れですが、

・「耳」と「口」
・「耳」と「口」と「人」

が基本になると思います。そして、この組み合わせから今の「聖」という漢字につながっていったように思います。
 この「聖」には、王様の「王」のような字形がありますが、これは「壬(テイ)」という漢字で、人の姿を表わしているそうです。どんな姿かについては諸説あるようですが、はっきりとしたことはわかりませんでした。

 そして、時代が進み、次のような組み合わせも出てきました。

・「耳」と「門」
・「聖」の略体と「徳」の略体

 急に「門」が加わって「?」と思われるかもしれませんが、これはおそらく「問(と)う」との対比からできたものと思います。
 一方、「聖」と「徳」の組み合わせも唐突に感じるかもしれませんが、これは当時の社会の乱れを正そうとして生まれた儒教が関係しているのかもしれません。

 以上、勝手な推論ではありますが、この根拠となっているのは『Wiktionary』です。以下、引用します。

*Wiktionaryー聖の字源解説ー
会意。「耳」+「人」(楷書では羨筆を足して「𡈼」「王」と書かれる)+「口」、人が音をよく聞き取るさまを象る。「きく」を意味する漢語{聽 /hleeng/}を表す字。のち仮借して「すぐれた人」を意味する漢語{聖 /hlengs/}に用いる。
『説文解字』では「耳」+音符「呈」と説明されているが、これは誤った分析である。甲骨文字や金文の形を見ればわかるように「呈」とは関係がない。

*Wiktionaryー聽󠄀の字源解説ー
形声。「𢛳」(「德」の略体)+音符「聖 /LENG/」の略体。「すぐれた人」を意味する漢語{聖 /hlengs/}を表す字。のち仮借して「きく」を意味する漢語{聽 /*hleeng/}に用いる。
『説文解字』では「耳」+「𢛳」+音符「𡈼」と説明されているが、これは誤った分析である。

 そして、今回はそれぞれの漢字の意味についてはふれないと書きましたが、「聖」については私自身よくわかっていなかったので、最後にその意味を確認しておきたいと思います。

『漢字源 改訂第五版』より。
①ひじり。賢くて、徳のすぐれた人。▽儒家では最高の人格者をいう。
②おかしがたく厳かなさま。「神聖」「聖域」
③その道で最高にすぐれた人。この上なくすぐれている。「詩聖(最高の詩人。杜甫[トホ]のこと)」「書聖(最高の書家。王羲之[オウギシ]のこと)」
④天子のこと。また、天子に関する事につけることば。「今聖」「聖諭(天子のおおせ)」
*日本
①ひじり。すぐれた僧。「日蓮聖人(ニチレンショウニン)」「高野聖(コウヤひじり)」
②キリスト教で、すぐれた功績を認められた人の名につけることば。▽英語Saintの音写。「聖フランシスコ」

 以上のような意味も「神の声を”きく”ことができる人」が元になっていると考えれば納得できるのではないでしょうか。 

*参考資料
『「聴(聽󠄀)のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/22645394.html
『漢語多功能字庫ー聖ー』
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E8%81%96
『漢語多功能字庫ー聞ー』
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E8%81%9E
『Wiktionaryー聖ー』
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%81%96
『Wiktionaryー聽󠄀(聴)ー』
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%81%BD

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