「説」について

 四字熟語「道聴塗説」にある「説」について調べてみました。

 まず「説」の組み合わせですが、

「言」+「兌」

という分け方になると思います。「言」は基本的に「言う、話す」という理解でいいと思います。「言」の成り立ちについては「言」についてを参考にしてください。

 問題なのは「説」の右側「兌」です。

 何が”問題”なのか、ですが、「兌」の成り立ちの解説が辞書によって異なっているためです。
 具体的にみていく前に、「兌」の一番古い(と思われる)甲骨文字をみてみます。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。

 これを元に、それぞれ次のような解説がされています。
『漢字源 改訂第五版』
会意。「八印(開く、抜ける)+兄(人)」。悦や脱の原字で、人の衣を開いて脱がすさまを示す。抜きとるの意を含む。
『新漢語林 第二版』
会意。八+兄。八は、分散するの意味。兄は、いのるの意味。いのることによって、むすぼれた気持ちが分散し、よろこぶの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
会意。儿+口(くち)+八(わける)。人が口をあけて笑うことから、「よろこぶ」意。「悅エ
ツ・說エツ」の原字。

 『漢字源 改訂第五版』のような解説はわたしが調べたかぎりでは他に見当たりませんでした。
 白川静氏の『字統』は『新漢語林 第二版』と同じように「兄」を「祈る」という意味に解釈されています。
 そして、『角川新字源 改訂新版』の「人が口をあけて笑うこと」と同じような解説があるのは『Wiktionary』『漢語多功能字庫』でした。
 『漢語多功能字庫』では「八」を「人が笑ったときにできる皺(しわ)」「発声時の息」と解説されているのが特徴的です。また、「笑う」というよりは「話す」という見方もあるようです。

 以上のようにいろいろな見方があるようですが、どの解説も腑に落ちません。それで調べを進めたところ『漢字源流|中華語文知識庫』に次のような解説があり、納得できる手がかりになりました。

”甲骨文字は「兄」と「八」から成る。六書において会意に属する。「八」は対等・区別の意を持ち、「兌」の交換・相互の意は明らかに「八」に由来する。”
*『漢字源流|中華語文知識庫』の中国語原文を『DeepL』で翻訳したものです。

 この解説をもとに、ここからはわたしのいつもの勝手な推論です。

 翻訳では「八」は対等・区別の意味となっていますが、基本的には「分かれる、分ける」という意味になるかと思います。それに「兄」という字形が加わっていることに意味があるように思います。

 ここで、改めて「兌」の一番古い(と思われる)字形をみてみます。

 こういった字形は甲骨文字と呼ばれるもので、『Wikipediaー甲骨文字ー』によると次のようなことが甲骨には刻まれている(描かれている)とのことです。

”甲骨文のほとんどは占卜(せんぼく)の記録で、卜辞(ぼくじ)と呼ばれる。占卜のほとんどは殷の国家あるいは殷王に関するものであるが、祭祀・軍事・狩猟・農業などの社会政経活動などから、気象・天災・健康状態・出産などの人間には制御不可能なものまで、さまざまな事柄が占われた。”

 このような内容と「兌」の古い字形とを照らし合わせてみると、「人が口を開けて笑っている様子」が、どのような文脈で使われているのかがわたしにはよくわかりませんでした。
 それよりも『漢字源流|中華語文知識庫』の解説のほうが理解しやすいように思います。

 では、どういうことかというと、「兄」という漢字は、同じ親から生まれた男の子どものうち、年上の者を表わす他、姉の夫のことや、夫・妻の兄といった義理の兄のような場合もあるかと思いますし、年長者を指すこともあります。
 そういった立場にある「兄」は、皇位の継承、祭祀や軍事では誰がどのような役割を果たすか、等々を、占いによって決めるさい、重要な人物であったと思われます。そういった立場にある「兄」に「八」を加えることによって、交換=交替、相互=継承、というような意味合いが「兌」に与えられたのではないかと考えました。

 一方、「八」を漢数字の「8」としてではなく、絵文字のような図形とみる解釈もあり、その場合は、「八」が通り道を示して「人が通り抜ける様子」と解説されています。

 いずれにしても、「兌」の古い字形が何を表わしているのかはっきりしないために生じている問題のように思えます。

 では、「兌」にどのような意味があるかですが、『漢検漢字辞典 第二版』を基本とし、他の辞典も参考にして、解説したいと思います。

[ダ]:かえる。とりかえる。 *「兌換(ダカン)」

[エツ]よろこぶ。

[エイ]するどい。 *「兌利(エイリ)」

 『漢検漢字辞典 第二版』では「兌」の意味が音読みで区別されています。
 なお、わたしの考えでは、「ダ」の意味が基本になっているように思います。交換、相互といった意味合いから「通じる、通る」といった意味が生じ、それに「心(忄)」が加わって「悦(エツ):よろこぶ」という漢字が作られたのではないかと思います。
 [エイ]の「するどい(鋭い)」については、はっきりとしたことはわかりませんが、一説には、八を図形として「兌」を「人が(狭いところを)通り抜ける」という形としていることからの意味とも言われています。この見方が正しいとすると、「兌」の一番古い字形が抽象的でわかりにくいことからこのように異なる解釈が生じたのではないかと思います。

 そして、最後になってしまいましたが、「説」について説明したいと思います。
 「説」には、物事を分けて明らかにするという意味が基本にあり、「説明」あるいは「解説」という言葉がそれを表わしているように思います。これはおそらく「兌」に「分ける」という意味合いが含まれていることから「説」という漢字がつくられたのかもしれません。

 『論語』の最初に、次のような一節があります。

「子曰く、学びて時に之を習う、亦(また)説(よろこ)ばしからずや。」

 今まで知らなかったこと、わからなかったことが、学ぶことによってわかるようになる。それは喜ばしいことであるというような言葉ですが、この場合の「よろこぶ」が「説」で表わされているところがなんとも意味深いですね。

 以上で、「説」についてを終わります。

*参考資料
『漢字源流|中華語文知識庫』<兌>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%85%8C
『漢語多功能字庫』<兌>
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E5%85%8C
『「税(稅󠄀)」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/2022-04-12.html
『「脱」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/2022-04-14.html
『「鋭󠄀」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/2022-04-15.html
『Wikipediaー甲骨文字ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2%E9%AA%A8%E6%96%87%E5%AD%97

 

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