「後」について

 「三思後行」という四字熟語にある「後」について調べました。

 まず意味ですが、『新漢語林 第二版』を参考にまとめてみました。
①うし-ろ。背後。
②あと。のち。将来。子孫。あととり(跡取り)。
③おく-れる。遅くなる。間に合わない。 おとる(劣る)。
④あと-にする。あとまわし(後回し)にする。

 次に成り立ちをみていきますが、「幺」に注目して各辞典の解説を読んでみてください。
『漢字源 改訂第五版』
会意。「幺(わずか)+夂(あしをひきずる)+彳(いく)」で、足をひいてわずかしか進めず、あとにおくれるさまをあらわす。のち、后コウ・ゴ(うしろ、しりの穴)と通じて用いられる。
『新漢語林 第二版』
会意。彳+幺+夂(夊)。彳は、道を行くの意味。幺は、糸でつなぐの意味。一説に、おさないの意味。夊は、足の意味。道を行くときに糸が足にからまって(一説に、幼いために)歩みがおくれるの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
会意。彳と、夂ち(あし)と、幺よう(つなぐ)とから成り、足をつながれて前へ進めないことから、「おくれる」、ひいて「あと」「うしろ」の意を表す。
『常用字解』白川静
会意。彳(てき)と幺(よう)と夂(すい)とを組み合わせた形。彳は十字路の形である行の左半分で、道路。幺は御の古い字形にみられるように、糸たばを拗(ねじ)った形の呪具(じゅぐ)。幺を使って祈り、敵が後退する(うしろへしりぞく)ことを求めるので、夂(後ろ向きにした足あとの形)を加える。後は道路で呪器の幺を使って、敵が後退することを求める呪儀である。

 「彳」は「行」の左半分で十字路の形。この解釈は各辞典とも同じと考えていいと思います。
「夂(ち)」と「夊(すい)」は本来別字だったようですが、常用漢字では「夂(ち)」の形に統一されています。意味は、「夂(ち)」が「遅れていく、後ろからついていく」というような意味で、「夊(すい)」は「足をひきずる様子」を表わして、「ゆっくり歩く、進みかねる、うしろへさがる)といった意味があるようです。

 問題なのは「幺」です。上記辞典では、ほぼ「糸」に関係していますが、『新漢語林 第二版』だけは、”一説”と前置きしながらも、「幼い」という意味の可能性を示唆しています。

 そこで、『漢字源流|中華語文知識庫』と『字形演變󠄀|小學堂』の「幺」の解説をグーグル翻訳で確認すると、「胎児の象形」「生まれたばかりの子どもの姿に似ている」という説明があり、いずれも「幼い」という意味につながります。

 「幺」の古い字形をみてください。

これだけ見せられても何の形か、どんな意味を表わそうとしたのか、まったく想像できませんが<苦笑>、もしかしたら次のような姿を表現したかったのかもしれません。

それと、もうひとつ興味深い記述が目に止まりました。以下、『Wikipediaー殷ー』からの引用です。

「伝説上、殷の始祖は契とされている。契は、有娀氏の娘で帝嚳の次妃であった簡狄が玄鳥の卵を食べたために産んだ子とされる。」
「女神が野外の水浴の場で、天から降りてきた鳥の卵を呑んで妊娠し、男の子を産むというのは、商に始まる始祖伝説の類型」

 「幺」の一番古い(と思われる)文字は殷(商)の時代の甲骨文字で、上記の伝説は殷の時代のものですから、もしかしたら、当時はこういったことが信じられていて、「幺」の形が卵に似ているのかもしれません。

ではなぜ「幺」を「いと(糸)」とする辞典が多いのかですが、「幺」「糸」の古い字形がほとんど同じように見えたからだと思います。そのために混同が生じ、「いと(糸)」は片方または両端に何本かの糸を示すものを「いと(糸)」としたのだと思います。

こんな感じです。

 以上のことを踏まえると、「後」に含まれる「幺」は”胎児”あるいは”生まれたばかりの子どもの姿”ではないかとの結論に達しました。ただこれはいつものわたしの勝手な推論です<笑>。

 そして、「後」は「小さい子どもが後からついて歩く様子」を表わし、最初に示したような意味として使われるようになったのだと思います。
 「②将来。子孫。あととり(跡取り)」といった意味があるのも頷けます。

 それから最後になってしまいましたが、なぜ、胎児の姿を表わす字形が必要だったのかという点についての勝手な推論です。
 それはおそらく、当時の王朝や諸侯における王位の継承問題に深く関わる子孫の誕生というのは、非常に重要で関心の高いものだったと考えられるからです。

 以上、「後」についてでした。

*参考資料
『小學堂字形演變󠄀』<幺>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=28577
『漢字源流|中華語文知識庫』<幺>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%B9%BA
『「後」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/26601469.html
『Wikipediaー殷ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%B7

 

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