「温故知新」という四字熟語にある「故」について調べました。「古」が含まれる漢字は多数ありますが、「故」の成り立ちは諸説あって、結局はっきりしたことはわかりませんでした。何が問題だったのか、などについて、思考の過程を記録しておきたいと思います。
まず、「故」の組み合わせをみてみます。
「故」=「古」+「攵󠄀(攴、ボク、ホク)」
「攴」は「とまた(トと又)、ぼくづくり、ぼくにょう、のぶん(ノと文)」というような呼び方があって、漢字の構成要素として用いられます。漢字の右側にある場合は、ほぼ「攵」の形になります。
成り立ちは、
「攴」=「卜(ボク、ホク)」+「又(ユウ、右手)」
で、「手に棒のようなものを持って、[軽く、そっと、ポンと]打つ・叩く」というような意味・動作を表わすとのことです。また、そのような動作から、「強(し)いる、強制する、仕向ける」などの意味も表わすようですが、そのような具体的な意味としてではなく、「広く動作を示す動詞としての記号」に用いられるという解説もありました。
「卜」は棒のようなものを表わしているのだとは思いますが、「卜」を「ホク、ボク」と読んで、「占い、占う」意味を表わします。『漢字源 改訂第五版』によると、「昔、亀の腹甲や獣の肩甲骨の裏に小さな穴を複数ほり、そこに焼け火ごてを突きあてると表面にぼくっと割れ目が生じる。その割れ目の形を見て吉凶をうらなった。」ということなので、「攴」は焼け火ごてを突き当てる動作からできた字形かもしれません。
一方、「古」は次のような成り立ちとみていいと思います。
「古」=「十」+「口」
『角川新字源 改訂新版』によると、「会意。口と、十(おおい)とから成り、何代も語り伝える昔のことの意を表す。」という解説でした。
「十」は数「10」を表わしますが、「多数、すべて、十分」というような意味もあって、ここでは「多数」の意味になっています。
「十」の一番古い字形は、「|」のような形でした。後に真ん中に黒い丸印(肥点)のようなものが加わり、次第に今の形になりました。
白川静氏『常用字解』では、「十」は指事文字とし、数を数えるときに使う算木(さんぎ)で、横一本を「一(いち、1)」、縦一本の「|」が「ジュウ、10」を表わすとしていて、この解説が一番わかりやすかったです。『漢字源流|中華語文知識庫』では、「算木」ではなく、「縄(なわ)」と見ているようですが、いずれにしても、「|=10」という見方です。
その他、「十」を象形文字とみて、「針の形」としている辞典もありますが、なぜなのかがわかりませんでした。
いろいろと書きましたが、結論としては、『角川新字源 改訂新版』の解説が一番わかりやすいと思いました。
参考までに、他の辞典による「古」の成り立ちの解説を紹介しておきます。
『漢字源 改訂第五版』
象形。口印は頭、その上は冠か髪飾りで、まつってある祖先の頭蓋骨(ズガイコツ)を描いたもの。克(重い頭をささえる)の字の上部と同じ。ひからびてかたい昔のものを意味する。
『新漢語林 第二版』
象形。金文は、克の金文、冑(チュウ)の金文の上部の形と似て、固いかぶとの象形。固くなる・古い・いにしえの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』とは全く異なる解説です。子どもたちに成り立ちの説明をするときには、一冊の辞典に頼るのではなく、できるだけ複数の辞典を参考にしなければと改めてそう思います。
最後になってしまいましたが、「古」と「故」の意味を比較し、「古」に、なぜ「攵󠄀」が加えられることになったのかを考えてみたいと思います。
「古」
①ふる―い。ひからびているさま。こちこちのさま。
②ふるびたさま。ふるめかしいさま。
③いにしえ。むかし。
④昔の人。先祖。先王。
⑤昔の教え。昔の道徳。
「故」
①もと。むかし。以前。
②ふる-い。ふるい事がら。ふるいしきたり。ならわし。先例。
③としより。年長者。
④もとより。もともと。はじめから。
⑤旧知。以前からのつきあい。また、以前からのいきさつ。なじみ。
⑥死ぬ。
⑦ゆえ。わけ。理由。原因。ゆえ-に。それだから。
⑧こと。ことがら。できごと。
⑨非常のこと。わざわい。むほん。うらみ。
⑩ことさら。わざと。わざとする。
前提として、「古」が先に作られた漢字だとすると、「故」の①②③は「古」と共通の意味合いのように思います。
そして、「古」に「攵󠄀」が加えられたことによって「故」に④~⑩の意味が加わったのだと考えられますが、それは「攵󠄀」を”動作を表わす”記号として付加することによって、過去の「動作」⇒「行い、出来事、習慣、経験」から「原因、理由」などといったことまで表わせるようになったのではないかと考えました。

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