四字熟語「克己復礼」の「己」について調べました。
音読みは「コ・キ」、訓読みは「おのれ」です。
意味は、
①おのれ。自分。みずから(自ら)。私。私欲。
②つちのと(*)。十干(じっかん)の六番目。
(*五行説では土に当たり、陰陽説(陽=兄[え]、陰=弟[と])の弟[と]との組み合わせになるため「土の弟(つちのと)」とも言います。)
の二つですが、基本的には①の意味になると思います。
問題なのは成り立ちです。諸説があって、はっきりしたことはわかっていないようですので、まずいくつかの説を紹介し、それを元にしてわたしの考えを最後に記します。
では、各辞典類の成り立ちの解説です。
『漢字源 改訂第五版』
象形。己は、古代の土器の模様の一部で、屈曲して目立つ目じるしの形を描いたもの。はっと注意を呼びおこす意を含む。人から呼ばれてはっと起立する者の意から、おのれを意味することになった。
『新漢語林 第二版』
象形。人のひざまずく形に似た三本の横の平行線を持ち、その両端に糸を巻き、中の横線を支点とする糸巻きの象形。紀の原字で、糸すじをわける器具の意味を表したが、借りて、おのれ・つちのとの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
象形。先端を引き出した糸筋の形にかたどり、糸のはし、ひいて、はじめの意を表す。「紀キ
」の原字。借りて、「おのれ」の意に用い、また、十干の第六位に用いる。
『常用字解』白川静
象形。直角に曲がった定規に似た器の形。定規や糸巻きに用いるものであろう。糸巻きに糸を捲きとることを紀といい、おさめる、のりの意味となる。
『Wiktionaryー己ー』
象形文字であるが由来は不詳。土器等に刻むしるしの形、いぐるみの形、物を縛る綱の形、など複数の説が存在するが定説はない。
これらの解説でわたしが着目したのは、
・古代の土器の模様の一部 『漢字源 改訂第五版』
・器の形 『常用字解』白川静
・土器等に刻むしるしの形 『Wiktionaryー己ー』
です。
ではなぜこういった解説に着目したのかを説明します。ここからはいつものわたしの勝手な推論です。
まず、「己」の一番古い(と思われる)字形を二つみてください。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。


二つ目は一つ目を裏返したような形になっていますが、ほぼ同じ字形と考えていいと思います。
この字形は甲骨文字と呼ばれる古い字形ですが、今の「己」と、あまり、というか、ほとんど変わっていません。
一般的に、漢字は長い年月の間に形が変わっていくものが多いんですが、それが変わらないことにヒントがあるように思いました。また、単純でほぼ直線を用いて描かれていることから、なんらかの物を描いたというよりも、記号のようなものではないかと考えました。
そこで、上記に挙げた解説をヒントに、「己」は、
器に描かれた文様の一種、雷文
ではないかと思いました。
その根拠ですが『Wikipediaー中国の文様史ー』に次のような記述がありました。
”紀元前1700年頃より中国最古の王朝である殷が成立し、それに続く周とともに青銅器時代が始まった。この青銅器時代になると、新石器時代の様相は一変し、青銅器の表面には、神の顔ではないかとされる「饕餮文(とうてつもん)」、「龍」や「鳳凰」、「蝉」、「象」などの動物文が主文として表され、地には隙間なく「雷文」が施された。~~~中略~~~「雷紋」とは、中国の青銅器や陶磁器によく使われる方型または円型の渦巻文様をいう。文様は邪霊から中身を守る力があると考えられ、奇怪な装飾が息詰まるほどびっしりと施されている。”
また、雷文については『Wikipediaー雷文ー』でその概要がわかります。
”雷紋は、直線がつぎつぎと曲折していく幾何学的模様で、中国では3千年以上の昔から青銅器陶器、漆器、金工、木彫、建築などに用いられている。組み合わせたり、重ねたり、電光をなかにはさんだりして用いられることもある。万物、田畑を潤す雷雨を表す紋様のため、豊作、吉祥の象徴と考えられている。”
具体的に、雷文のひとつのパターンをみてみます。

どこかで見たことのあるような・・・。そう、ラーメンのどんぶり(丼)にある模様です。

このような文様を元にして描かれた字形が「己」なのではないかと推察しています。
上記の引用にあるように、雷文は”地”、いわゆる文様の基本・基礎となる模様として使われていることから、文様の”初め、始まり”とも考えられると思います。
そして、雷文に限らず、異なった文様を使ったり、文様のパターンを変えることによって誰のものであるのかわかるようにしたのではないかと考えました。そこから「おのれ、自分、わたし」といった意味に使われるようになったのではないかと推察しています。
*参考資料
『Wikipediaー己ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%B1
『「己」のはなし|かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/25239791.html
『Wikipediaー中国文様史ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%96%87%E6%A7%98%E5%8F%B2
『Wikipediaー雷文ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B7%E7%B4%8B
「雷紋柄ののれん|バリエーションや歴史、デザイン例をご紹介」『オーダーのれんドットコムstaffブログ
https://www.order-noren.com/blog/home/archives/000396.html
『カーペットにまつわるお話~世界で愛される装飾文様 “雷文”~』news letter vol.21、MUNI CARPETS
https://muni.co.jp/blog/5466/

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