「言」について

 「巧言令色」の「言」について調べました。「言」の意味については省略し、成り立ちについてだけ解説します。

 ではその成り立ちですが、わたしが調べたかぎりでは、
「言」=「辛」+「口」
という組み合わせが一般的なようです。

 一方、異なった見方もあります。それは、
「言」=「一」または「二」+「舌」
という組み合わせです。

 『小學堂|字形演變󠄀』には次のような解説がありました。
”鄭樵『通志』:「言は、二と舌に従う。二は古文の上の字である。舌の上から出るものが言である。」”(*中国語原文をDeepLで翻訳)

 また、『Wiktionary』の解説では、
”「舌」+「一」。「いう」を意味する漢語{言 /*ŋan/}を表す字。もと「舌」が{言}を表す字であったが、区別のために横画を加えた。
『説文解字』では「䇂」+「口」と分析されており、「辛」+「口」と解釈する説もあるが、甲骨文字の形とは一致しない。”

 それから、『角川新字源 改訂新版』は象形文字として、次のような解説がありました。
”口の中から舌がのび出ているさまにかたどる。口からことばを発する意を表す。”

 一方、成り立ちを「辛」+「口」とする辞典には次のような解説があります。
『漢字源 改訂第五版』
会意。「辛(切れ目をつける刃物)+口」で、口をふさいでもぐもぐということを音オン・諳アンといい、はっきりとかどめをつけて発音することを言という。
『新漢語林 第二版』
会意。辛+口。辛は、取手のある刃物の象形。口は、ちかいの文書の意味。もし不信があるときには罪に服することを前提とした、ちかい・つつしんでいうの意味を表す。
『常用字解』白川静
会意。古い字形は辛と口とを組み合わせた形。辛は刑罰として入れ墨するときに使う把手(とって)のついた大きな針の形。口はサイで、神への祈りの文である祝詞(のりと)を入れる器の形。サイの上に辛を置き、もし制約を守らないときにはこの針で入れ墨の刑罰を受けますというように、神に誓いをたてて祈ることばを言という。

 以上、見てきたように、「言」の成り立ち、組み合わせは大きく二つに分かれています。
 その真偽はわかりませんし、時代によって成り立ちや組み合わせが異なるだけで、どちらも正しいのかもしれませんが、わたしは、どちらかというと、
「言」=「一」または「二」+「舌」
のほうが腑に落ちました。その理由は「舌」「辛」「言」の一番古い(と思われる)字形にあります。比較のため、どれも甲骨文字にしました。「舌」と「言」のやや小さめの画像は『小學堂|字形演變󠄀』からお借りして、あとの三つの字形は『Wiktionary』からお借りしています。

 まず、「舌」と「言」の古い字形をそれぞれ二つみてください。まず、「舌」です。

 次に「言」をみてみます。

このように「舌」「言」ともに、下向きの三角(▽)の下に左右上向きの線があるのとないのがあります。

 では、「辛」をみてみます。

 わたしが調べたかぎり、下向きの三角(▽)の下に左右上向きの線がある字形しかありませんでした。

 このことから言えることは、「辛」+「口」が「言」であるとすると、「言」の最初に示した、下向きの三角(▽)の下に左右上向きの線がない字形の説明がつかないように思います。

 したがって、『Wiktionary』の解説にある

”「舌」+「一」。「いう」を意味する漢語{言 /*ŋan/}を表す字。もと「舌」が{言}を表す字であったが、区別のために横画を加えた。

という見方が一番シンプルでわかりやすいように思います。

なお、『常用字解』白川静氏によると、「舌」は、

”口の中から出ている舌の形。甲骨文字の形はその先端が二つに分かれている形で、蛇の舌のように激しく動く舌であり、人の舌の形ではない。”

と、解説されています。

 最初、この解説を読んだときは、なるほど!と思いましたし、おそらくそうなんだろうとは思います。しかし、わたしもわたしなりに考えたことがありますので、それを紹介して終わりにしたいと思います。

 まず、先端が二つに分かれている形ですが、わたしたちの舌はもちろん蛇のように二つに分かれているわけではありません。しかし、よく見ると、舌の真ん中に溝のような線が入っています。舌正中溝(ぜっせいちゅうこう)というそうですが、その特徴をわかりやすく表現したのではないかと思いました。また、長い棒のように見えるのも、口の中から外に出すことができることを誇張したものではないかと思います。
 そして、▽の下にある左右に上向いた線ですが、わたしたちの舌は「舌根、舌体、舌尖」に大きく分けられ、その舌根(ぜっこん)の部分を表わしているのではないかと思いました。

 自分で書いていて、こじつけだとは思いますが<苦笑>、備忘録として残しておきたいと思います。

 以上で、「言」についてを終わります。

*参考資料
『小學堂|字形演變󠄀』<舌>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=439
『小學堂|字形演變󠄀』<辛>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=706
『小學堂|字形演變󠄀』<言>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=696
『Wiktionaryー言ー』
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A8%80

コメント

タイトルとURLをコピーしました