四字熟語「曲肱之楽」の「曲」について調べてみました。
読みは、音読みが「キョク」、訓読みは「まーがる、まーげる」。
意味については『新漢語林 第二版』を参考にしました。*一部加筆修正しています。
①まーがる。
㋐折れまがる。
㋑ゆがむ(歪む、物の形や考え方・行いが正しくなくなること)。
②まーげる。
㋐折りまげる。
㋑いつわる(詐る、事実をまげる)。
③よこしま(邪、正しくないこと、道にはずれること)。
④かたよる(偏る、片寄る、基準からはずれて一方に寄る。また、一方に寄ってバランスや公平さを失うこと)。
⑤くま(隈)。湾曲した所。奥深く隠れた所。すみ。また、ほとり。
⑥こまかい。こまかい事がら。
⑦つぶーさに。くわしく。あまねく。広く。
⑧ふし。音楽の節まわし。「音曲」
⑨うた(歌)。しばいの歌詞。戯曲。
成り立ちについては諸説ありますので、まずそれらの元になっている古い字形を古い順に四つみてみます。そしてそのあとに諸説を整理して紹介します。
*『漢字源流|中華語文知識庫』<曲>より




ア)曲尺(かねじゃく、L字型の定規で大工道具)の形。
イ)湾曲(わんきょく、弓のように曲がった)した器の形。
ウ)細い竹や蔓草で編んだ籠の形。*白川静氏の説。
エ)蚕(かいこ)を飼う器具の形。
オ)曲がりくねった農地の形。
アの説はおそらく一番目の字形が元になっていると思われます。この字形は一番古い(と思われる)甲骨文字です。曲尺というL字型に直角に曲がった定規で、縦横の線は目盛を表わしているのかもしれません。
しかし、この曲尺は直角に曲がってはいますが、それは形状であって「曲げる、曲がる」という意味合いがあるものではありません。
そのため、イ・ウの説にあるように、二番目以降の古い字形がL字型から凵字型へと変化し、ウの、細い竹や蔓草で編んだ籠の形から「曲げる、曲がる」という意味を表わそうとしたのではないかと思います。
エ・オの説を否定はしませんが、わたしはアからイ・ウへと時代の流れとともに字形が変化したというふうに考えています。
また、以下の記事を読んで、イ・ウの説がよりわかりやすく納得できました。
”中国は世界で最も早く竹を育成し、利用した国で、最大の竹産出国でもあり、「竹の国」とも呼ばれている。
古くから中国人にとって、竹は単に日用品や生産活動に必要な道具・工芸品であるだけでなく、奥深い文化的意味も持っている。竹は外側がまっすぐで中が空洞、枝が多く葉が生い茂り、すらりと伸びて四季を通じて緑であることから、高雅、純粋、謙虚、節度を象徴し、その内面と品格が中国人に深く愛されている。
竹編みは中国人にとって非常に身近なものだ。子どもの頃の背負いかごや涼を取るための竹製の扇やマット、魚を捕るためのかごや網、物を入れるための竹製のかごや筐(はこ、かご、かたみ、キョウ)など、深い郷愁を感じさせ、誰でも多くの思い出を心に刻む。
竹編みは中国古代工藝品の中で最も早くから利用され、最も用途が広く影響が深い竹製品の一つで、竹の加工は4500年前からすでに専門業界として発展している。”
*「中国人がこよなく愛する”竹”」『和華』Record Chinaより
竹だけではなく、籐(トウ、ヤシ科の竹に似たつる性の熱帯植物、ラタン)も竹のように自由に曲げられることから「曲」の字形の元となる材料だと思いますが、それを証明する資料を見つけることができませんでした。
いずれにしても、ア~オの中でどれが正しくてどれが間違いであるとかではなく、時代の流れによって字形が変化し、それに伴った解釈が生まれたということでいいように思います。
そして、最初に示した「曲」の意味を改めてみてみると、①から⑤までは「曲がる、曲げる」という基本の意味から派生した意味のように思います。
⑥こまかい。こまかい事がら。
⑦つぶーさに。くわしく。あまねく。広く。
この二つについては、竹や籐で編まれた細工が意味の元になっているように思います。
⑧ふし。音楽の節まわし。「音曲」
⑨うた(歌)。しばいの歌詞。戯曲。
この二つについては、『漢語多功能字庫』<曲>の解説に、
”音楽の旋律が抑揚豊かで婉曲に旋回するため、転じて楽曲の「曲」を意味する。”
とありました。*DeepLによる翻訳文です。
以上で、「曲」についてを終わります。
*参考資料
『漢字源流|中華語文知識庫』<曲>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E6%9B%B2
『小學堂|字形演變󠄀』<曲>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=394
『漢語多功能字庫』<曲ー形義通解ー>
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E6%9B%B2
『「曲」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/26945437.html
「中国人がこよなく愛する”竹”=文人墨客の精神的なよりどころ、ウーロン茶とも密接に関係」編集:藤井、日中文化交流誌『和華』、株式会社Record China
https://www.recordchina.co.jp/b937527-s42-c30-d0189.html
*その他、竹に関する興味深い資料
『竹の不思議な生態と構造を応用し、ものづくりのさらなる技術発展をめざす。』井上昭夫、里山生態学研究室、近畿大学農学部スペシャルサイト・農LABO
https://www.nara.kindai.ac.jp/labo/research/012.php
『竹について(竹の種類)』虎斑竹専門店・竹虎、山岸竹材店
https://www.taketora.co.jp/c/special/bamboo

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