四字熟語「歳寒松柏」の「寒」について調べてみました。
常用の音訓は、音読みが「カン」で訓読みが「さむーい」です。
意味については『新漢語林 第二版』を参考にしました。
①さむーい。つめたい。また、さむさ。⇔暑。
②おののく(戦く。恐[こわ]くて体や手足が震える。)。ぞっとする。恐(おそ)れる。
③こごえる(凍える)。ひえる。
④ひやす。つめたくする。
⑤まずしい(貧しい)。身分が低い。
⑥さびしい。さむざむとした。
⑦二十四気の一つ。大寒と小寒。
⑧くるしい。また、苦しむ。なやむ(悩む)。
基本的には①の意味で、⑦は暦の上でよく耳にすると思います。他の意味は①の意味との関連から生じた意味と考えれば、なんとなく理解できるかと思います。
成り立ちについてですが、辞典によって異なる部分がありますので、それぞれの解説・解釈を参考にしながら、見ていきたいと思います。
まず、「寒」の一番古い(と思われる)字形を二つ見てください。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。


この二つの字形を見ながら、「寒」の組み合わせを見てみます。
「宀」+「人」+「茻(ボウ、草のむしろ)」
最初の字形はこのような組み合わせだと考えられます。そして、二番目の字形では、
「冫・仌(ヒョウ)」が加えられて、今の字形になっています。
「宀󠄀(ベン、うかんむり)」は人が住むための建物の屋根の形で、いわゆる「家」を表わします。
古い字形の真ん中には「人(ひと)」が描かれていて、今の字形「寒」では省略されているように見えますが、もしかしたら、「ハ」のような部分がデザイン化された「人」なのかもしれません。
「茻」は「草のむしろ」とのことですが、「むしろ」は稲や麦などの茎を乾燥させた「わら(藁)」で編んだ敷物のことですから、「草=わら(藁)」と理解していいと思います。その藁で寒さを防いでいる様子を表わしていると思います。
そして「冫󠄀・仌」は「こおり(氷)」を表わしています。
今は「こおり」を「氷」と書きますが、元々は、
「冰」
と書かれていたようです。その「冰」の一番古い(と思われる)字形は、実は

だったようです。『漢字源流|中華語文知識庫』<冰>の解説によると、これは”こおりが割れる様子を象(かたど)った象形文字”とのことです。
しかし、これだと意味が伝わりにくかったのでしょう。時代が進んで、次のようになりました。

左側が「水」で右側が「冫󠄀」です。左右反対ですが、これだと「冰」と分かる字形ですね。
『漢語多功能字庫ー冰ー』の解説によると、右側の黒い二つの点のようなものは、”水が固まった状態を象(かたど)っている”とのことです。
一方、「仌」を”こおりが割れる様子”という解説がどうにも腑に落ちません。他の辞典類でも、”こおりを透かしたとき見える筋目を描いたもの”『漢字源 改訂第五版』、”こおりの筋目の形”『角川新字源 改訂新版』、”こおりの結晶”『新漢語林 第二版』という、同じような解説です。
そこで、今回もわたしのいつもの勝手な推論を加えておきます。わたしはこの「仌」は、
”こおりを貯蔵する場所の入り口を描いたもの”
で、氷室(ひむろ)のことではないかと思います。「人(ひと)」を二つ重ねたように見えますが、これは「入(はい)る」で、「仌」は「入り口」の形を表わしているのではないかと思います。「入」を二つ重ねることで、氷が解けないような奥深い場所、例えば、洞窟や洞穴のような場所の入り口を表わすことによって、「こおり」を連想させようと考えたのではないかと考えました。
つまり、「こおり」は、
「仌」→「冰」→「氷」
このように字形が変化していき、最初の字形「仌」は字形からの意味の連想が難しかったため次第に使われなくなっていったのではないかと思います。そしてかわりに「冰」という字形が作られ、更に「冰」の「冫󠄀」の上の部分を「水」に加えて今の「氷」という字形に落ちついたのだと思います。
以上で「寒」についてを終わります。
ここからは「寒」と同じ構成要素を持つ「塞」について少し触れておきたいと思います。
「塞」は音読みで「ソク、サイ」、訓読みは「ふさーぐ、ふさーがる」です。訓読みからわかるように意味は「ふさーぐ」という理解でいいと思います。
問題なのは成り立ちです。「寒」と同じ形の上の部分の成り立ちに違いがあります。
改めて「寒」の一番古い(と思われる)字形のひとつと、「塞」の一番古い(と思われる)字形を見てみます。*両方とも『漢字源流|中華語文知識庫』からお借りしました。


上が「寒」で下が「塞」です。『漢語多功能字庫』では「塞」の成り立ちを次のように解説しています。
”甲骨文字は「宀」に二つの「工」と「廾」を組み合わせ、人が両手で物を家の中に押し込む形を表し、本来の意味は「詰める」である。”*中国語原文をDeepLで翻訳したものです。
「工」はここでは、工具や工作という意味で使われていると思います。「廾」はここでは、両手で行う動作を示していると思います。
時代が進み、「塞」の字形は次のようになっていきました。

「工」が二つから四つになり、この後もこの字形が元となって、今の字形になったと思われます。
以上です。
*参考資料
『漢字源流|中華語文知識庫ー寒ー』
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%AF%92
『漢字源流|中華語文知識庫ー冰ー』
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%86%B0
『漢字源流|中華語文知識庫ー塞ー』
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%A1%9E
『漢語多功能字庫ー寒ー』
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E5%AF%92
『漢語多功能字庫ー冰ー』
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E5%86%B0
『漢語多功能字庫ー塞ー』
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E5%A1%9E
「世界における雪氷利用の歴史と文化」『日本における氷室 ・ 雪室の歴史文化とその現状』竹井 巖、北陸大学紀要第 52 号(2021)、pp.4(324)
https://www.hokuriku-u.ac.jp/library/libraryDATA/kiyo52/gakugai01.pdf
『「氷(冰)」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/20309227.html
『「塞」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/2024-11.html?p=4
『1559「氷」はなぜ「こおり」か?』常用漢字論ー白川漢字学説の検証、2017年07月24日
https://gaus.livedoor.biz/archives/23942857.html
『あつじ所長の漢字漫談19 雪降る寒い日』kanji café(漢字カフェ)、公益財団法人 日本漢字能力検定協会
https://www.kanjicafe.jp/detail/7779.html

コメント