「四海兄弟」の「海」について調べてみました。
まず、意味の確認から。今回は『新漢語林 第二版』を参考にしました。
①うみ。わたつみ。⇔陸。
②みずうみ(湖)。いけ(池)。「北海(バイカル湖)」
③物事の多く集まる所。「官海」「学海」
④広く大きい。また、広く大きい所。
⑤都から遠い土地。辺境。地の果て。
「うみ(海)」というと、「陸地以外の、塩水が広がっているところ」が頭に浮かぶと思いますが、日本でも琵琶湖(びわこ)のことを「鳰(にお)の海」*と言うように②の意味もあるようです。(*鳰はカイツブリという水鳥のこと。滋賀県の県の鳥で、琵琶湖に多くいるらしい。)
おそらく、③④のように「うみ(海)=広いところ」という意味合いがあるのだと思います。また、『漢字源 改訂第五版』には①の「うみ」は「薄黒くみずをたたえたうみ」としています。
「うみ(海)」と聞くと、青や水色のイメージがありますが、海の深さに加え、場所や季節、天候などの条件によっては「薄黒い、暗い」といったイメージも生じます。
①にある「わたつみ」は日本の神話に出てくる海の神様のことですが、海や海原といった意味にも使われます。
⑤は、①とは対照的な意味になってしまっていますが、実は、この意味が元々の意味なんじゃないかと、調べを進めるうちに、そう思うようになりました。
『漢字源 改訂第五版』によると、日本では「硯(すずり)の水を溜(た)める窪(くぼ)んだところ」のことを「うみ」と言うそうです。硯を自然の風景に見立てたそうですが、なんとも趣(おもむ)きのある表現ですね。
意味の解説が長くなってしまいました。ここからが本題です。
まず、「海」の組み合わせですが、わたしが調べた限りでは、
「海」=「氵(水)」+「毎(每)」
になります。そして、「毎(每)」を音符としています。
「毎(每)」の音読みというと「マイ」が思い浮かぶと思いますが、「梅園(バイエン)」のように「バイ」という音読みもあります。そして、「上海」は「シャンハイ」というように中国語では「海」を「ハイ」と読みます。音声学的なことはわたしはわかりませんが、「バイ、ハイ」という中国語の発音を当時の日本人が「カイ」と聞き取ってしまったということだろうと思います。
では、いよいよ「毎(每)」の成り立ちについてです。細かい表現の違いはありますが、手持ちの漢和辞典ではほぼ次のような解字です。
女性が髪の毛を結って髪飾りをつけている様子
*これが一番古い(と思われる)「每」の字形です。『漢字源流|中華語文知識庫』からお借りしました。

そして、この成り立ちに関係する資料がいくつかありましたので、紹介します。
”古代中国では、若い女性は髪を垂らすか簡素なスタイルで未婚を示していた。15歳の誕生日まで三つ編みにし、髪結い式である笄礼(けいれい)と呼ばれる成人式を迎える。式では洗髪し、二つ編みに寄り合わせ、笄(こうがい)と呼ばれる髪留めで抑える。式を終えた女性は結婚できる成人とみなされる。”
『古代人の生活へタイムスリップ:髪を結う―ファッションのしきたり』神韻芸術団
このようなことから、女性は女性でも「結婚できる成人女性」を表わしているのではないかと思います。そして更に調べを進めたところ、次の二つの資料にたどり着きました。
”中国では成人式は紀元前1000年の西周時代から17世紀の明の時代まで数千年続いていました。 ~~~中略~~~ 一方、女の子は15歳になると、「笄礼」を行います。笄とはかんざしのことで、笄礼は髪を上げてかんざしを差す儀式です。「笄礼」を終えた女の子は結婚できる成人として認められます。
『中国の成人式』中国国際放送局
”中国では、新石器時代の遺跡から骨笄、銅笄、玉笄と考えられる出土物があり、当時からさまざまな材質の笄(けい)が使われていたと見られている。
民俗的には笄を使うことが成人女性として扱われることも多かった。このため笄で結い始める時の儀式である「笄礼」(けいれい)を成人式のように扱うことがある。「笄」には成人した15歳という意味もある。”
『笄ー歴史ー』Wikipedia
以上のことから「毎(每)」は、
結婚できる年齢を迎えた成人女性が髪を結って髪飾りをつけている様子
を表わしていると言っていいのではないかと思います。
では、なぜ「うみ」という意味を表わすのに「氵(水)」と「毎(每)」を組み合わせたのでしょうか。
『漢字源 改訂第五版』では、
形声。「水+(音符)每」で、暗い色のうみのこと。
と解説されていて、他の辞典もほぼ同じです。この場合、「每」の読みが「マイ、カイ」であることから「くらい」という意味があるという考え方のようです。そのため、成り立ちから意味を類推することはできないように思います。
そこでわたしは「每」の成り立ちそのものをもとに「海」という漢字について考えてみました。ここからの解説はいつものわたしの勝手な推論です。
”水”はわたしたちが生きていく上で欠かせないものであり、それは古い時代でも変わりはないと思います。
中国を代表する川に黄河と長江が挙げられますが、その流域では川の水と川が運ぶ土の恵みによって文明が発展していきました。
そのためかどうかはわかりませんが、氵(水)を含む漢字が非常に多くあり、黄河や長江も当初はそれぞれ”河”、”江”と呼ばれていたようです。
黄河は約5,464キロ、長江は約6,300キロメートルで、日本列島が約3,000キロメートルですから、非常に長いということがわかります。
その川の水が流れていく様子を当時の人たちはどんな思いで眺めていたんでしょうか。その行き着く先を果てしもなく遠い所に感じていたように思います。
また、その川の水を受け容れてくれる場所というのは当時の人たちにとってどんな場所であったのでしょうか。それはきっと大切な場所であり、母のような存在であったように思います。そういったことを表現しようとして、女性でなおかつ成人した女性を象(かたど)った「每」が選ばれたように思います。
氵(さんずい)に母という漢字でも良かったのではないかと思いますが、わたしが調べたかぎりではそのような漢字を見つけることができませんでした。ちなみに「氵+女」で「汝(ジョ、なんじ」という漢字があって、これも元は川の名前だったようです。
水の流れの元となる川が黄河なのか長江なのか、あるいは無数にある「川」のことなのかまではわかりませんでしたが、いずれにしても、
川の水が最後にたどり着く場所、受け入れてくれる場所=「海」
ということではないかと(勝手に<苦笑>)推測しています。
よって、最初に示した「うみ」の意味は、⑤の「都から遠い土地。辺境。地の果て」が元々の意味であったように思います。そして、川の水が海に注ぎ込まれることによって、③物事の多く集まる所。であったり、④広く大きい。また、広く大きい所。という意味にもなっていったと考えます。
以上です。
*参考資料
『黄河』中国語スクリプト
http://chugokugo-script.net/chugoku/kouga.html
注意:このページはhttpsという暗号化された通信ではありませんので閲覧にはご注意ください。
『Wikipediaー黄河文明』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E6%B2%B3%E6%96%87%E6%98%8E
『Wikipediaー長江文明』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E6%B1%9F%E6%96%87%E6%98%8E
『「海」のはなし』かんじのはなし、yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/8495071.html
『「海」のはなし・続』かんじのはなし、yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/8608745.html
『「海」のはなし(続)』かんじのはなし、yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/8920695.html
『漢字Q&A<旧版>:Q0072部首のうち、一番所属文字が多いのは何ですか?』漢字文化資料館
https://kanjibunka.com/kanji-faq/old-faq/q0174/q0072/
『あつじ所長の漢字漫談46 「漢」と「法」はなぜさんずいへんか?』kanji café(漢字カフェ)、公益財団法人 日本漢字能力検定協会
https://www.kanjicafe.jp/detail/8439.html
『中国の成人式』中国国際放送局
https://japanese.cri.cn/20180112/5944da23-35d5-213c-d82e-f2718b2f2445.html
『笄ー歴史ー』Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%84

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