「柏」と「白」

 四字熟語「歳寒松柏」の「柏」と、「柏」に含まれる「白」について調べました。

 まず「柏」ですが、音読みは「ハク・ビャク」で、訓読みは「かしわ」です。
 意味は、日本では樹木の「かしわ。ブナ科の落葉高木。」のことですが、中国では次のような意味になります。*『角川新字源 改訂新版』より。

 ”このてがしわ。ヒノキ科の常緑高木。松とともに墓のまわりに植えられることが多く、節操のかたいことにたとえられる。”

 この意味と、先に調べをすませている「松」と「柏」*植物篇の内容とを合わせて、「柏」の成り立ちをみていきます。

 まず、「柏」の組み合わせですが、一般的には、
「木」+「白」
です。
 「白」の常用の音読みは「ハク、ビャク」で、常用の訓読みは「しろ、しら、しろーい」です。意味は『例解学習漢字辞典 第七版』を参考にしました。
①しろ。しろい。
②明るい。
③けがれていない。清(きよ)い。
 *けがれる(汚れる)は精神的、よごれる(汚れる)は物質的。
④はっきりしているようす。
⑤何もない。
⑥言う。申す(もうす)。

 問題なのは「白」の成り立ちです。その成り立ちにはいろいろな説がありすぎて<苦笑>、困ってしまいました。とりあえず、わたしが調べた限りの説を書き出してみます。
ア)白骨化した頭の骨の形。
イ)太陽が今まさに昇ろうとしているか、又は昇ったばかりの日光の形。
ウ)火が燃えている炎の形。
エ)どんぐり状の実で、実の台座と、その実の形。
オ)親指の形。
カ)米粒の形。
キ)不明。

 なぜこのように説が分かれているのかですが、おそらく「白」の一番古い(と思われる)字形が原因だろうと思います。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。

 これがその字形です。確かにこの形では意見が分かれると思います。
 わたしもわたしなりにそれぞれの説について真偽を確かめようとして調べましたが、結局わかりませんでした。この字形を描いた人に聞いてみたいです<笑>。

 ということで、とりあえず、「キ:不明」ということにしておきたいと思います。

 なぜ、”とりあえず”としたのかですが、それは「伯」という漢字が解決の糸口になるかもしれないと考えたからです。

 突然、無関係とも思える「伯」についてとはいったいどうゆうことなんだろうと思われたかと思います。

 「伯」は常用漢字で、常用の音読みは「ハク」。訓読みもありますが「おさ、かしら、はたがしら、かみ」といったほとんど聞かないような読みばかりです。それよりも「伯父(おじ)」「伯母(おば)」といった熟字訓のほうがピンとくるかもしれません。
 意味は『新漢語林 第二版』を参考にして、少し補足説明を加えてあります。
①おさ(長)。かしら(頭)。首長。
②一番上の兄。上から「伯・仲・叔・季」の順。
③おじ(伯父・叔父)。父の兄。
④夫の兄。
⑤おっと。妻が夫を呼ぶ時に用いる。
⑥一芸にすぐれている人。「画伯(ガハク)」
⑦五等爵(ゴトウシャク)*公・侯・伯・子・男の第三位。
 *爵は祭礼用の酒器。位によって神酒を受ける順序・量が異なっていた。
⑧年長の男子を尊敬していうことば。
⑨馬の神。馬祖。また、その祭り。

 そして、注目すべきなのは「伯」の一番古い(と思われる)字形です。*『小學堂|字形演變󠄀』より。

ちょっと小さくて見にくいかもしれませんが、なんと!「白」の一番古い(と思われる)字形と同じと言っていいかと思います。

 この二つの古い字形と「白」「伯」の意味を比べていて、ふと思ったことは、「もしかしたら、この共通する古い字形は、元々、伯の意味を表わそうとして作られたものではないか」ということです。そして、時代が進んで、「伯」から「白」が分かれて「白」の意味に当てられたのではないかと考えました。

 そう考えると、「伯」の「亻󠄀(にんべん、人)」を「木」に替えて「柏」とし、樹木の種類を表わす漢字ができたのではないかと考えました。
 つまり、「木+白=柏」ではなく、
「伯」⇒(「亻󠄀」⇒「木」)⇒「柏」
というふうに考えたほうがいいのかもしれません。

 前に、「白」の成り立ちは不明だとしましたが、仮に「白」は「伯」から分かれた字形だとすると、

は、オの「親指の形」で、五本の指の中で「長、一番上」といった意味を表わそうとして作られたのかもしれません。「伯」の意味を見ていると、なんとなくわかるような気がします。

 最初この古い字形は上下共に尖ったような形で指ではないだろうと思っていましたが、この文字を骨に刻むことを考えると、上下を丸くするよりは尖らせたほうが刻みやすかったのではないかと思います。
 それから、これは、こじつけかもしれませんが、「伯」の持つ意味「人の上に立つ人=長」が清廉潔白というイメージになり、清い、明るい、白い、といった意味へと派生していったのかもしれません。

 以上の解釈は、わたしのいつもの勝手な推論ですが、備忘録として残しておきたいと思いました。

 最後になりましたが、「松」の一種クロマツと「柏」の一種コノテガシワの葉っぱの部分を画像で見てみたいと思います。

 どちらも常緑の針葉樹ですが、クロマツの葉はまさに”針(はり)”のようで、おそらく「松」の仲間はこのような葉なのだと思います。一方、コノテガシワの葉はやや丸みを帯びているように見えます。このような葉の形をしているものを「柏」としたのかもしれません。

 日本では「柏」をブナ科の落葉広葉樹に当てていますが、その葉っぱは、

このような形で、ヒノキ科のコノテガシワの形になんとなく似ているように思えます。
 樹木の進化、あるいは変化によるものかもしれません。
 それから、ブナ科の「かしわ」は落葉樹に分類されていますが、秋の紅葉が終わった後、枯れた葉は褐色に変わり、その多くは春まで枝についたまま新芽が出るまで落葉せずに残っていることから、日本では神が宿る縁起木とされているそうです。このような特徴を考え合わせると、日本と中国とで分類上異なった見方をしていたと考えられている「柏」も、当時の人たちにとっては同じように見えていたのかもしれません。

*参考資料
『漢字源流|中華語文知識庫』<白>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E7%99%BD
『小學堂|字形演變󠄀』<伯>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=474
『「白」のはなし:かんじのはなし』2021年10月17日、yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/2021-10.html?p=3
『花と木の漢字学ー<五月)かしわ餅と「柏」ー』寺井泰明、大修館書店、p87-107
『サカタのタネ園芸通信ー東アジア植物記 将軍柏[前編] コノテガシワー』小杉 波留夫
https://sakata-tsushin.com/yomimono/eastasiaplants/detail_420/
『サカタのタネ園芸通信ー東アジア植物記 将軍柏[後編] コノテガシワー』小杉 波留夫
https://sakata-tsushin.com/yomimono/eastasiaplants/detail_421/
『GKZ植物事典ーカシワ(槲・檞・柏)とコノテガシワ(児手柏・側柏)ー』
https://gkzplant.sakura.ne.jp/topics/shokubutu/kasiwa/kasiwa.html
『Wikipediaー柏ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B7%E3%83%AF
『庭木図鑑 植木ペディアーヒノキ科の樹木ー』松村忍
https://www.uekipedia.jp/%E3%83%92%E3%83%8E%E3%82%AD%E7%A7%91%E3%81%AE%E6%A8%B9%E6%9C%A8/#google_vignette

コメント

タイトルとURLをコピーしました