四字熟語「遠慮近憂」の「憂」について調べてみました。
まず、意味の確認です。『角川新字源 改訂新版』を参考にしてまとめました。
一
①うれえる。うれい。うれえ。
㋐思い悩む。心配する。悩み。心配
㋑悲しむ。悲しみ。
㋒おそれる。よくないことが起こるのではないかと心配する。
㋓あわれむ。かわいそうだと思う。
㋔病(や)む。疲れる。病気。
㋕喪(も)。喪中(もちゅう)。
②苦労すること。力を尽くすこと。苦しみ。
③暗い。かすか(微か)。
二
きづかう(気遣う)。おもんぱかる(慮る)。
この意味の中でわたしが注目したのは、
㋕喪(も)。喪中(もちゅう)。
です。
「憂」の古い字形(金文)を二例見てください。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。


白川静氏の『字統』によると、「憂」は、
”喪中にあって愁(うれ)える人の形に、心を加えた形。 ~略~ 憂の金文の字形は、頭に喪章として衰絰(さいてつ、麻のひも)を加えている。 ~略~ 喪に服するものの憂愁の意より、すべて悲痛・憂苦の情をいう。”
とありました。また、『中国社会風俗史』の「第二十三章 喪礼」に、
”孔門の有子が、父母を失って号泣哀慕する子供をみて子游に向い、私は喪礼になぜ哭踊(こくよう、哭するの余り踊るような形をすること)をやるのか、前からこれをやめたいと考えていたが、この子供が慕う様をみてその意義が分った、というと子游は、人は悲しみがあれば憂え、憂いがあれば嘆く。嘆けば胸を撫でて悲しみ踊るのが、最も悲しい時なのであると答えておる。男は哭踊し、女は胸を撫でて悲しむ。 ~略~ 君主の死を哭する場合にも踊るが、魯の宣公が死んで後に晉(しん)から帰った子家も、復命(ふくめい、上の者への報告)を終るとすぐ袒ぎ(はだぬぎ、左肩部分を脱いで哀悼の意を表わす礼法)になって麻で髪を括(くく)り、哭して三踊している。”
というような記述がありました。
このことから、「憂」の古い字形は、
親しい人が亡くなったときの嘆き悲しむ姿
ではないかと思います。
現在の字形「憂」を見て、その意味を想像することは難しいと思いますが、金文の古い字形がイメージとして頭の中に残っていると、想像しやすいように思います。
最後になってしまいましたが、「憂」の成り立ちをみてみます。
「𢝊」=「頁」+「心」
これが「憂」の本字(元々の形)でした。「頁」の音読みは「ケツ」で、人の頭の部分を強調した形とのことです。下の「ハ」のように見える部分は両足のようですが、あえて小さく書いて、頭を強調させたのかもしれません。
後に「夊(スイ)、足を象った形」が加えられて今の字形になったようです。
「頁」+「心」+「夊」=「憂」
*「頁」は書物の紙面を数える助数詞「ページ」という意味もあります。
以上で「憂」についてを終ります。
*参考資料
『中国社会風俗史』尚 秉󠄀和、秋田茂明(編訳)、東洋文庫151、平凡社
『字統 普及版』白川静、平凡社
『「憂」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/12837288.html
「1809「憂」はなぜ「うれえる」の意味か?」『常用漢字論ー白川漢字学説の検証』
https://gaus.livedoor.biz/archives/26987008.html
『漢字源流|中華語文知識庫』<憂>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E6%86%82

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