「愧󠄀」と「恥」

 「仰天不愧󠄀」という四字熟語にある「愧󠄀」について調べてみました。常用漢字ではありませんので、常用漢字の「恥」とどんな違いがあるのかも調べてみたいと思います。

 今回はまず「愧󠄀」の成り立ちからみていきます。
「忄(心)」+「鬼」
 「忄(心)」は「こころ」で、漢字の偏「忄」となって、感情や意志などの心の動きに関することを表わします。
 問題なのは、「鬼(キ、おに)です。
 日本では鬼と聞くと、昔話の桃太郎に出てくる鬼であったり、節分の豆まきに登場する鬼が頭に浮かぶかと思います。しかし、中国で鬼というと、幽霊とか亡霊といった、人が亡くなった後のことを言うようです。また、人が亡くなったあと、精神的なものは「魂(コン、たましい)」となって天にのぼり、肉体的なものは「魄(ハク、たましい)」となり、地に帰ると信じられているそうです。その他、天にのぼった「魂」は「神」となり、地に帰った「魄」は「鬼」になるという説もあるようです。いずれにしても、中国で「鬼」とは、人が亡くなった後のことという理解でいいかと思います。

 では、『漢字源 改訂第五版』『新漢語林 第二版』『角川新字源 改訂新版』の順でそれぞれの成り立ちの説明を見てみます。

・会意兼形声。鬼キは、まるい頭をもつ亡霊のこと。まるい意を含む。愧は「心+(音符)鬼」で、心が縮んでまるく固まってしまうこと。はずかしく気が引けた状態である。
・形声。忄(心)+鬼。音符の鬼は、平常ではないの意味。心中に平常でないものを感じる、はじるの意味を表す。
・形声。心+(音符)鬼。

 そして、意味は3辞典ともほぼ同じでしたので、まとめました。「*」は『角川新字源 改訂新版』だけでしたので番号は付けていません。
①は―じる。気が引けて心が縮まる。
②はじ。はずかしいこと。
③はずかし-める(はづかしむ)。
*とがめる。せめる。

 どの成り立ちもわたしには理解しにくい説明ですし、意味についても、「恥」との違い・区別がはっきりしませんでした。

 そこで、わたしなりに考えたことを記します。勝手な推論であることをあらかじめお断りしておきます<笑>

 まず、「愧󠄀」と「恥」を時系列的に見てみると、わたしが調べたかぎりでは、「愧󠄀」が先に作られ、「恥」はその後にできた漢字のようです。
 次に、「愧󠄀」についてです。成り立ちを「忄(心)+鬼」として、「鬼→人が亡くなった後→過去」と理解し、過去のことをはじめ、自分自身が行ったこと(行為)について振り返り、「恥ずべきこと」を反省をし、「はーじる」という意味を表わしているように思います。

 一方の「恥」ですが、「耳+心」。わかりやすい成り立ちですね。これは広い意味での「はーじる」ことを表わすために作られた漢字ではないかとみています。ですから、過去に行ったことやある行為に対する「愧󠄀」の意味も含まれると思います。
 では、改めて、「恥ずかしい」「恥」ってどんな意味?と聞かれるとすぐには明解な答えが見つかりません。これも恥ずかしいことですね<苦笑>。
 それで、いろいろ調べていたところ、興味深い記事が見つかりました。書道家の武田双雲さんという方のブログなんですが、そこで、「恥という漢字。個性的な見解求む!」と読者に問いかけたところ、一日で100以上集まったそうです。どの答えも興味深く、「なるほど!」と思えるものがけっこうありました。その中の一番最後に次のような見解がありました。

「恥と言うのは他人がいなければ感じないことです。他人の言を気にする心が生むものだからではないでしょうか。」

う~ん、確かにそうだなあと感心することしきり。辞書に欲しい解説です。

*参考資料
[講演]中国人の生死観ー儒教の伝統を中心にー、余 英時、
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/41371
『中日における「鬼」のイメージの比較研究 : 慣用表現を手がかりに』李 暁玲、東アジア文化研究、巻6(2021年2月)、國學院大學学術情報リポジトリ
https://k-rain.repo.nii.ac.jp/records/1634
書道家武田双雲公式ブログ by Ameba、「恥」という漢字を独自解釈(2010年9月11日)
https://ameblo.jp/souun/entry-10645225835.html



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