280 舎短取長

読み:しゃたんしゅちょう
意味:短所や欠点をすてて、長所をのばすこと。また、つまらないものを排除して、よいものを取りあげること。
出典:『漢書3 志(下)』<芸文志第十>*ちくま学芸文庫

解説①:
 出典にある「志」は、ここでは「記録」というような意味で使われています。*「志(こころざ)す:ある目標の達成に心を向ける」という意味では使われていません。
 多くの記録を内容別に分類・整理して一覧にしたものが「芸文志(げいもんし)」です。いわゆる”図書の目録”のことになります。
 「舎」は「家、建物、宿(旅館)、休む所」などといった意味がありますが、ここでは「捨てる」という意味で使われています。

解説②:
 今回の四字熟語は、次のような文中にあります。
”『易』に「天下の物ごとは帰するところがみな同じく、そこに達する道を殊(こと)にするだけであり、行きつくところは一つなのに、慮(おもんぱか)りかたがまちまちであるだけのことである」と言っている。いま家(か)ー学派ーを異にする者も、それぞれの長所を推(お)し、知慮を窮(きわ)めることによってその指意(しい、一番言いたいこと)を明らかにし、たとい蔽(おお)われた短所があっても、その要旨帰結を合わせるならば、やはりまた六経(りっけい、りくけい)の支(わか)れや流裔(ながれ)となる。その人を明王や聖王に出会わせ、これにその折中したところを得させるならば、いずれもみな股肱の臣としてたのむべき人材なのである。仲尼(ちゅうじ、孔子のこと)のことばに「[都邑で]礼が失われれば、これを野(いなか)に求める」とあるが、いまや聖人の世を去ること久遠(くおん)で、六芸(りくげい)の道術は欠けて廃(すた)れ、もはや改めて探し求めようがない。さればこれを九家の術によって補うことは、かの野(や)に求めるに、なお勝(まさ)らないであろうか。もし六芸の術を修めて、この九家の言を観、短を捨て長を取ることができるならば、諸子のあらゆる方略に通達(つうたつ、つうだつ、深く達する・通じる)できるのである。”
*出典:p552-553。*読み仮名や意味を加筆したり、一部修正しています。

 文中に「九家」とありますが、これは「儒家、道家、陰陽家、法家、名家、墨家、従横家、雑家、農家」という、当時の主な思想学派のことです。これに「小説家、兵家」を加えた十一家のことを百家と呼ぶようです。そして、それに主な思想家のことを諸子と呼んで、「諸子百家」という表現が生まれました。
 この諸子百家が生まれた歴史的背景については『Wikipedia』次のような解説がありました。
 ”春秋時代に多くあった国々は次第に統合されて、戦国時代には7つの大国(戦国七雄)がせめぎ合う時代となっていった。
 諸侯やその家臣が争っていくなかで、富国強兵をはかるためのさまざまな政策が必要とされた。それに答えるべく下克上の風潮の中で、下級の士や庶民の中にも知識を身につけて諸侯に政策を提案するような遊説家が登場した。諸侯はそれらの人士を食客としてもてなし、その意見を取り入れた。さらに諸侯の中には斉の威王のように今日の大学のようなものを整備して、学者たちに学問の場を提供するものもあった。その思想は様々であり、政治思想や理想論もあれば、実用的な技術論もあり、それらが渾然としているものも多い。”

 その他、文中に「六経(りっけい、りくけい)」とありますが、これは『詩経』『書経』『礼記』『楽経』『易経』『春秋』のことを言います。この中で『楽経』は失われてしまったため、現在は「五経」とされています。いわゆる「四書五経」の「五経」のことで、儒学の経典のことを言います。
 それからもうひとつ「六芸」とありますが、おそらく「六経」のことを言っているのだと思います。

解説③:
 改めて今回の四字熟語の意味をみてみます。
「短所や欠点をすてて、長所をのばすこと。また、つまらないものを排除して、よいものを取りあげること。」
 この意味に解説②で示した内容を加えると、次のようになるかと思います。
「諸子百家それぞれの短所や欠点をすてて、それぞれの長所を取りあげ、合せることができれば、それが一番いい方策となる。そのためにもあるひとつの思想だけを学ぶのではなく、広く学ぶことが大切である。そうすることによって、比較対照でき、それぞれの長所と短所も理解できるようになる。」

 あるひとつの考え方に固執するのではなく、広く学ぶことの大切さを言っている四字熟語でもあるように思います。

 以上です。

*参考資料
『Wikipediaー諸子百家ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AB%B8%E5%AD%90%E7%99%BE%E5%AE%B6
『世界史の窓ー諸子百家ー』
https://www.y-history.net/appendix/wh0203-051.html
『コトバンクー九流ー』
https://kotobank.jp/word/%E4%B9%9D%E6%B5%81-52232
『Wikipediaー目録学ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%AE%E9%8C%B2%E5%AD%A6
『懐徳堂関係資料解説』湯浅邦弘他、懐徳堂研究会
https://www.kaitokudo-kenkyukai.org/kaitokudou/documents/
『Wikipediaー六芸ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E8%8A%B8
『<論説>漢代における「道術」の展開:経学・識緯・術数』保科季子、史林83巻5号、p759-791、京都大学文学部内史学研究会、京都大学学術情報リポジトリKURENAI紅
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/items/1a2b27a2-1d8a-4615-a6d3-1acf3926fcc9




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