「壺」とヒョウタン

 四字熟語「一壺千金」の「壺」について調べてみました。

 「壺」の字形の成り立ちについてですが、わたしが調べたかぎりでは、どれも”つぼ”を描いた象形文字という点で一致していて異論はないように思われます。ちなみに、次の字形が一番古い(と思われる)甲骨文字です。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。

そして、次の画像が壺の一例です。

 このイラストには蓋(ふた)がありませんが、甲骨文字には蓋が描かれています。

 「壺」の意味は、いわゆる「つぼ」という理解でいいと思いますが、四字熟語「一壺千金」では、「壺=ヒョウタン」という意味で使われています。疑問に思う子どもたちがいるかもしれませんので、この点に関する資料の一部を引用・紹介します。

ヒョウタン:
”一般に〈葫蘆(ころ)〉という。中国では最も早く栽培された有用植物の一つ。7000年前の新石器時代の浙江省余姚県河姆渡(かぼと)遺跡から遺物が出土している。古来用途がひじょうに広く,特別に珍重崇拝されてきた。まず食用,飼料用,薬用のほか,重要な容器として使われた。中身の果肉を取り去り,殻をそのまま乾燥させて水や酒を入れたり,縦に二つ割りにしてひしゃくに、横に断って食物などの容器にした。人類の最も初期の容器といえよう。一説に最初の原始的陶器のモデルは種々の形の葫蘆容器だともいう。” 執筆者:鈴木 健之、出典:株式会社平凡社『改訂新版 世界大百科事典』コトバンク
 また、「壺」の特長として、次の資料が参考になりました。以下、引用です。
”水を貯えるには器が要る。史前の器としては土器がすぐ頭に浮かぶが、焼きの甘い土器では表面から水はにじみ出て蒸発し、目減りしてしまう。その上、重い。長い日数がかかり、荷物の多い海洋移住では舟に積みこむには適していない。熱帯ではココナツも若ければ中に果汁と呼ばれる透明な飲み水になる胚乳の液体がたっぷり含まれている。ただし、殻が厚くかさばるし、重い。東アジアから熱帯アジアにかけては竹も容器になるが、口が広い竹筒に入れた水を長期間もれないように栓をするのは難しい。
古代の海洋航海で、最もすぐれた水入れは、ヒョウタンであったと考えられる。” 湯浅浩史『ヒョウタンと古代の海洋移住』

 そして「壺=ヒョウタン」について、興味深い説明が目に留まりました。

”漢土*において、古来 瓠(コ,hù)・匏(ホウ,páo)・壺(コ,hú)と記される植物は、ユウガオ・ヒョウタン・フクベ・トウガンなどのうちいずれかである。”嶋田英誠『跡見群芳譜―農産譜(ヒョウタン)―』
*「漢土(カンド)」は中国の本土の意味で、中国のこと。

 また、同資料に、

”ヒョウタンは多面的に利用される果菜である。まず未熟果を食用とすると言う面から見ると、アフリカにそれがすこしみられる。ヒョウタンの未熟果は苦味があるので、食べにくい果菜だが、くふうをすればよい。その代表は日本のカンピョウで、これはなんでもない丸型の果実をつけるヒョウタンの一品種に過ぎない。”

との解説もありました。基本的に”果実は苦くて食べられない”ようです。

その他、ヒョウタンに関する記事のいくつかに目を通しているうちに、ひとつの疑問が生じてきました。

”ヒョウタン”が古い時代から用いられていたならば、それを一字で表わす甲骨文字があるんじゃないか。

 この疑問を元にしていろいろ調べてみましたが、いわゆる”植物としてのヒョウタン”を表わす甲骨文字一字がなかなか見つかりませんでした。
 そこで、次に、”容器としてのヒョウタン”で調べたところ、ヒョウタン、あるいはヒョウタンの仲間を元にした字形と思われる二つの甲骨文字にたどり着きました。
 まず最初は、
「勺」です。「シャク、くーむ」と読み、水や酒を酌(く)む道具のヒシャク(柄杓)を表わす漢字で、その甲骨文字です。*『漢語多功能字庫』より。

これだとちょっと分かりづらいと思いますので、甲骨文字ではありませんが、同時代のものと思われる金文の字形を見てみます。*『Wiktionary』より。

どうでしょうか? わたしにはこれがヒョウタンを縦に割ったものを横から描いた形のように思えます。そして、中にある黒いものは、ヒョウタンの中身の種や果実、あるいは酌んだ水や酒を表わしているのではないかと推察しています。

 それからもうひとつは、
「卣」です。「ユウ」と読み、お酒を入れる壺、あるいは壺状の器という意味の漢字です。『Wiktionaryー卣ー』によると、この字は「瓜(カ、うり)」と同一字だそうです。*『漢語多功能字庫』より。

そして、同一字とされている「瓜」の一番古い(と思われる)金文の字形を見てみます。ちなみに、わたしが調べた限りでは「瓜」の甲骨文字を見つけることができませんでした。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。

 以上のような資料をもとに、わたしの勝手な推論をまとめてみたいと思います。

・ヒョウタンが熟すのを待って、割って食べようとしたが苦くて食べられなかった。
・果皮がとても堅いため、ひしゃくや食べ物などを盛る器として利用されるようになった。
・割らずに中身を取り出して、水や酒などを入れるものとして利用されるようになった。
・時代が進み、植物の「瓜」の仲間として認識されるようになった。

ということなのかなと推察しています。

 ヒョウタンは壺の原型であることから、「壺=ヒョウタン」というのは当たり前のことなのかもしれません。

 以上です。

*参考資料
『コトバンクーヒョウタンー』鈴木 健之、平凡社『改訂新版 世界大百科事典』
https://kotobank.jp/word/%E3%81%B2%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%9F%E3%82%93-3165598
『人類の友 ひょうたん』川田順造、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、(国立民族学博物館併任)教授、壬生町/地域史料デジタルアーカイブ、TRC-ADEAC株式会社
https://adeac.jp/mibu-town/text-list/d100130/ht000060
『ヒョウタンと古代の海洋移住』湯浅浩史、オーシャンニューズレター第306号(2013.05.05発行)、笹川平和財団
https://www.spf.org/opri/newsletter/306_3.html
『Wikipediaーヒョウタンー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%83%B3
『Wikipediaーウリ科ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%AA%E7%A7%91
『Wiktionaryー卣ー』
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8D%A3
『Wiktionaryー瓜ー』
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%93%9C
『人類始原の伴侶、ヒョウタンの美しい五弁花がひっそりと夕闇に咲く時期です』ホシナ コウヤ、tenki.jp、日本気象協会
https://tenki.jp/suppl/kous4/2019/08/18/29361.html
『跡見群芳譜―農産譜(ヒョウタン)―』嶋田英誠
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