四字熟語「寛仁大度」の「度」についてと、それに関連して「庶」についても少し調べてみました。
まず、「度」の意味を確認します。今回は『漢検漢字辞典 第二版』をもとにして、他の辞典の意味も参考にしながら、加筆・修正しています。
1.[ド・ト]
①ものさし(物差し)。長さの基準。
②のり(法)。決まり。法則。規則。制度。
③ほど(程)。程度。
④めもり(目盛)。角度・温度などの単位。
⑤たび(度)。回数。
⑥人柄。様子。
⑦渡る。越える。
⑧仏教で、悟りの世界や仏の世界へ導き入れる。救う。
2.[タク]
はかる。おしはかる(推し量る)。見積もる。
次に成り立ちと組み合わせについて、辞典類の解説をもとに、わたしのいつもの勝手な推論を加えながら、補足説明していきたいと思います。
では、辞典類にある字形の組み合わせのひとつを見てみます。
「又(て)+庶の略体」
つまり、「庶」の「灬(火)」が「又」に置き換えられた、ということのようです。
この組み合わせを元にして、「庶(ショ)」を音符とし「尺(シャク)」に通じる形声文字としています。「尺」は「長さの単位、物差し」などの意味があることから「度」には「長さをはかる」という意味があるのだとされています。
わたしはこの解説がどうも腑に落ちないため、いろいろと調べてみました。そして、いつもの勝手な推論を思いつきました<苦笑>。それをこれから説明します。
まず「度」と「庶」の一番古い(と思われる)字形を見てください。*「度」は『漢字源流|中華語文知識庫』、「庶」は『小學堂|字形演變󠄀』からお借りしています。


「度」の下の部分がかすれて見にくいかもしれませんが「又(手)」を表わしています。向きが異なりますが、三角形のような形が共通しているのがわかるかと思います。
これをどう見るかですが、わたしは「度」の三角形は「庶」の略体ではなく、「三角定規」そのものの形ではないかと推察しています。

これは、伏羲(ふくぎ、ふっき、ふぎ)と女媧(じょか)と呼ばれる古代中国神話に登場する二人の神です。神話・伝説によれば、この二人が万物生成の始祖とされています。
右が伏羲で手に持っているのが曲尺(きょくしゃく)とか指矩(さしがね)と呼ばれる、いわゆる三角定規のようなものです。左は女媧で、見づらいと思いますが、コンパスのようなものを持っています。
この三角定規が”地”、コンパスが”天”を造り出すための象徴的な道具とされています。
つまり、
伏羲が手に三角定規を持っているところを字形化したのが「度」
ではないかと推察しています。
そして、「度」と「庶」の上部の古い字形がよく似ていることから、最初に示したような組み合わせとされたのだろうと推察しています。
では「庶」の成り立ちですが、改めて一番古い(と思われる)字形を見てみます。

『Wiktionary』『角川新字源 改訂新版』によると、「庶」は、
「火」+「石」
とされています。
三角形のような図形が「石」とは、ちょっと疑問に思われるかもしれませんが、「石」の一番古い(と思われる)字形を見てみると、

「度」や「庶」の古い字形にある三角形のような形とよく似ています。*『漢字源流|中華語文知識庫』より。
では、なぜ、「庶」が「火+石」なのかですが、『漢語多功能字庫』に次のような解説がありました。*中国語原文をDeepLで翻訳したものの一部引用です。
”「火」と「石」を組み合わせたもので、「石」は声部も兼ねている。これは火で石を燃やし、食物を加熱するのを助けることを表しており、「煮」の初形である。古籍では「庶」を「衆庶」の「庶」として仮借し、調理を表すために新たに「煮」という字が作られたため、「庶」という字の本来の意義は次第に失われていった。”
”于省吾は、石を焼いて食物を炙(あぶ)ったり、水を入れた器に燃える石を投じて煮たりすることが、原始人類の加熱調理における習慣的な手法の一つであったと指摘している。”
以上のような解説で納得できればよかったんですが<苦笑>、どうも何かすっきりしません。そこでわたしのいつもの勝手な推論です。
わたしは、この「石」は「石積みのかまど(竈)」のことを意味しているのではないかと考えました。こんなイメージです。

そして、古い時代には外で煮炊きしていたのが、次第に家の中でも行なうようになっていったため、
「广」+「(石+火)」
という組み合わせになったのだろうと考えました。
「广󠄀」は音読みで「ゲン」。これを部首にして屋根・建物などの種類・状態に関する意を表わす字が作られます。
最後にもうひとつ問題点がありました。「庶」の字形の一部の「廿」です。先の説明では「石」だったのが、なぜ「廿」になったのか? 次の「石」の字形の変化を見てください。*どれも『漢字源流|中華語文知識庫』より。



このように、最初の字形ではわかりにくかったためでしょうか、2つ目の字形では、石と崖(がけ)が組み合わさったような形になり、3つ目の金文と呼ばれる字形では現在の「石」に近い形となっています。
そして更に問題なのは、2つ目と3つ目の字形が「口」の古い字形とよく似ているんです。

これが「口」の一番古い(と思われる)甲骨文字です。
このようによく似ているため、違いをはっきりさせようと、横線を突き出し、
「廿」
という字形に落ちついたのではないかと、勝手に推察しています。
以上、見てきたように、古い字形が似ていたため、時代の移り変わりの中で誤解が生じて混乱していたように思われます。それを整えていくうちに、今の「度」「庶」という字形に落ちついたのだろうと考えています。
以上で、「度」についての、わたしの勝手な推論を終わりますが、最後に、上記の解説とは異なるもの付しておきますので、比較・参考にしてみてください。
白川静氏『常用字解』<度>
”会意。席の省略形と又(ゆう)とを組み合わせた形。度は手で敷物の席(むしろ)をひろげる形で、席(むしろ)の大きさをものさしとして長さをはかることをいう。”
『常用漢字論ー白川漢字学説の検証』<度>
”度は「廿(イメージ記号)+广(イメージ補助記号)+又(限定符号)」と分析する。廿は革・黃などの上部に含まれ、獣の革である。これを敷物にすることがあるから、敷物というイメージを表す記号とする。广は家と関係があることを示す補助的な記号。又は手の動作を表す限定符号。したがって度は敷物にする革をサイズに合わせて計る情景を想定した図形と解釈できる。”
白川静氏『常用字解』<庶>
”会意。广(げん)と廿(じゅう)と火とを組み合わせた形。广は厨房(ちゅうぼう、台所)の屋根の形、廿は煮炊きに使う鍋の形、火は煮炊きする火。庶は厨房で煮炊きする形で、「にる」 の意味となる。”
『常用漢字論ー白川漢字学説の検証』<庶>
”庶は「炗(イメージ記号)+广(限定符号)」と解析する。炗は光の古文(篆文より古い字体)である。廿は革・黃(=黄)・堇(僅・勤などの基幹記号)・席・度に含まれ、獣の頭の部分を略画的に示す記号。これによって獣から採れるもの(皮や脂肪)を指示する。脂肪を焼いて照明にして光を出す情景を炗で暗示させ、「ひかり」を意味する光の異体字となった。广は家や建物に関わる限定符号。したがって庶は家の中に光を採り入れる情景を設定した図形。この意匠によって「多くの物を集める」というイメージを暗示させることができる。”
以上です。
*参考資料
『「度」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/20086308.html
『Wikipediaー武氏祠ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E6%B0%8F%E7%A5%A0
『Wikipediaー伏羲ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8F%E7%BE%B2
『Wikipediaー女媧ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E5%AA%A7
『常用字解』白川静、<度><庶>
『常用漢字論ー白川漢字学説の検証』<度>
https://gaus.livedoor.biz/archives/21258724.html
『常用漢字論ー白川漢字学説の検証』<庶>
https://gaus.livedoor.biz/archives/13360615.html
『Wiktionary』<度>
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BA%A6
『Wiktionary』<庶>
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BA%B6
『小學堂|字形演變󠄀』<度>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=1217
『小學堂|字形演變󠄀』<庶>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=2080
『漢字源流|中華語文知識庫』<度>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%BA%A6
『漢字源流|中華語文知識庫』<石>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E7%9F%B3

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