四字熟語「舎短取長」の「短」について調べてみました。
今回の問題点ですが、なぜそういう成り立ち・組み合わせなのかについての説明が不足している点です。それをまず確認するために、いくつかの辞典類の解説をそのまま紹介します。そして、そのあとに、いつものわたしの推論で、不足している点を補ってみたいと思います。
『漢字源 改訂第五版』
会意。「矢(短い直線)+豆(たかつき)」で、矢とたかつきのように、比較的みじかい寸法の物をあわせて、みじかいことを示した。
『新漢語林 第二版』
会意。矢+豆。矢は、大工がしらの象形の変形したもの。豆は、頭部の大きいたけの低い、たかつきの意味。大工がしらのもとで働く、たけのみじかい年少者のさまから、みじかいの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
形声。矢と、音符豆トウ→タンとから成る。みじかい矢、ひいて「みじかい」意を表す。
『常用字解』白川静
形声。音符は豆。[説文]に「長短する所有るときは、矢を以て正と為す」とあり、矢によって長短の長さをはかるの意味とする。豆は脚が高く頸(くび)の部分の短い食器である。それで短は短い矢をいい、すべて「みじかい、ひくい」の意味となる。
『常用漢字論―白川漢字学説の検証』<短>
短は「豆+矢」から成る。矢は武器の一つで、まっすぐで短いものである。豆は「たかつき」という食器の一つで、これもまっすぐに立つもの。まっすぐだが比較的短いというイメージを示している。この豆と矢とを合わせた短は、まっすぐで短い状況を暗示させる図形である。これは図形的意匠であって意味ではない。意味は上記の通りである。矢も豆も意味には入らない。
短は会意の手法による造形法の典型である。会意とはAとBをぶっつけて、AとBを超越したイメージ・意味を作り出す手法である。日(太陽)と月(つき)とをぶっつけて、「あかるさ」という抽象概念を作り出すのと同じように、矢(や)と豆(たかつき)をぶっつけて「みじかさ」という抽象概念を作り出している。もちろん図形から意味が出るのではなく、「みじかい」という意味の言葉を会意的造形法で表記を考案したというのが論理的な筋道である。
以上の解説のうち、『新漢語林 第二版』は「矢」を「大工がしらの象形の変形」と解釈されています。その真偽について判断できませんので、以下の解説は「矢」を武器の一種とみていることが前提になります。
「矢」が弓矢の「矢」であることに異論はありませんが、ではなぜ「矢=短い」なのでしょうか。その理由というか説明はなく、「矢=短い」というのが前提になってしまっています。研究者や専門家の人たちにとっては当たり前のことなのかもしれませんが、わたしはその当たり前のことがわかりませんでした。
それで、いろいろと調べたところ、わたしなりに納得できましたので、その点を記しておきたいと思います。
まず、古代中国の武器のうち、手に持って使うものとして「戈」「矛」「戟」「槍」などが挙げられます。これらはいずれも長い柄の武器になります。
一方、「矢」は弓を使って弾き飛ばすもので、上記の武器とは扱い方が異なりますが、棒状の柄の先に鏃(やじり)のようなものがついているといった、よく似ている形をしています。また、突き刺す、突き通すという点でも同様です。しかし、弓を使って弾き飛ばさなければならないことから、長い柄の武器に比べると短いです。
このことから「矢」に「みじかい」というイメージが与えられたのだと推察しています。
次に「豆」ですが、結論から先に言うと、短いという意味ではなく、小さいという意味として使われていると思います。
ここで言う「豆」は植物のマメではなく、食器の一種としての「豆」です。

これは春秋時代後期の「豆」です。*『Wikipedia』からお借りしています。
『Wikipedia』によると、
”豆(とう)は、中国の新石器時代後期の龍山文化期から漢代以後まで作られた盛食器である。元は祭祀で使われる礼器であったが、後世では日常の食器として使われた。日本の高坏(高杯、たかつき)に当たる。”
とのことです。
この時代の食器は大きく分けて、煮食器、盛食器、水器に分かれるようですが、煮食器よりも盛食器のほうが小さく、その中でも「豆」は小さいものになります。そして、前の説明にもあるように、長く礼器として使われたあとも日常の食器として使われたことから「短」の構成要素として選ばれたのではないかと思います。
以上の点から「矢」は他の長い柄の武器に比べると「みじかい」という特徴がありますが、「矢」だけで「みじかい」という意味にするのは無理がありますので、それに「豆」を加えて「短」とし、「みじかい」という意味に当てたものと推察しています。
以上です。
*参考資料
『「矢」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/22130383.html
『「豆」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/9455603.html
『古代中国の武器技術』ALA!中国
https://alachugoku.com/42408
『古代鏡展示館秋季企画展ー儀礼の器 商周青銅器ー』企画展解説シート 第11号、兵庫県立考古博物館加西分館
https://www.hyogo-koukohaku.jp/kodaikyou/modules/xelfinder/index.php?page=view&file=335&%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88_vol11%20%E5%84%80%E7%A4%BC%E3%81%AE%E5%99%A8.pdf
『Wikipediaー中国の青銅器ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9D%92%E9%8A%85%E5%99%A8
『Wikipediaー豆(食器)ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%86_(%E9%A3%9F%E5%99%A8)
『槍 ~兵器の王 天下九州を貫く紅槍纓と游龍の身法~』みつおかけんいち、武備ログ
https://bubilog.com/?p=462
『矛とは』刀剣ワールド
https://www.touken-world.jp/tips/56990/
『「豆」と言っても食べることができない。この特別な「豆」は「盒(蓋物)」から来ている。』フレンドリー山東(威海李君)
https://santougaido.muragon.com/entry/666.html

コメント