「仁」について

 四字熟語「寛仁大度」の「仁」について、今回は成り立ちと組み合わせを中心に調べました。また、意味については一般的な意味の紹介程度にしたいと思います。

 それから、解説を始める前に、古代中国の大まかな時代の流れをみておきます。なお、区分や年数については諸説ありますので、参考程度と考えてください。

殷(商):紀元前1600年頃~紀元前1050年頃
西  周:紀元前1050年頃~紀元前770年頃
春秋時代:紀元前770頃~紀元前456/403年頃
戦国時代:紀元前456/403年頃~紀元前221年頃
*春秋・戦国時代は東周とも呼ばれ、西周と東周を合わせて”周”と呼ばれています。

 では、まず「仁」の意味を確認します。今回は『新漢語林 第二版』を参考にしました。
①他者に対する思いやり。
 ㋐したしみ。いつくしみ。愛情。
 ㋑なさけ。あわれみ。同情。
 ㋒儒家における根本かつ最高の徳目・規範。義・礼・智(チ)・信とともに五常と呼ばれる。
 ㋓人の心。また、心の本体。
②いつくしむ。したしむ。また、めぐみそだてる。
③ひと。人間。=人。
④徳をそなえた人。
⑤仁にもとづいた政治。徳政。また、徳教。徳化。
⑥さね。果実の核中にあり、芽となるやわらかい部分。

 最後の⑥がやや異質のようにも思えますが、㋒の「儒家における根本かつ最高の徳目」という意味と、「果実の中でも芽となる部分は最も大切なところ」という意味が合致していると思います。

 以上のように、「仁」に与えられている意味の背景には儒教があります。

 では「仁」の一番古い(と思われる)字形を見てください。

現在の字形「仁」によく似ています。しかし、甲骨文字ということから、殷(商)や西周時代に描かれたものだと判断すると、儒教のような思想的な意味が与えられていたかどうかは疑問です。

 ここで、甲骨文字の基本的なことを確認します。

”殷王朝は、甲骨(亀の甲羅や牛の肩甲骨など)に熱した金属棒を当てることでひびを入れ、そのひびの形で吉凶を判断するという占卜(せんぼく、占いのこと)を行っていた。第22代殷王武丁(紀元前13世紀半ば頃)以降、甲骨に占卜の内容・結果を刻み込むようになった。これが殷墟より出土する甲骨文字である。”

”甲骨文のほとんどは占卜の記録で、卜辞と呼ばれる。占卜のほとんどは殷の国家あるいは殷王に関するものであるが、祭祀(さいし)・軍事・狩猟・農業などの社会政経活動などから、気象・天災・健康状態・出産などの人間には制御不可能なものまで、さまざまな事柄が占われた。”
*『Wikipediaー甲骨文字ー』より。一部読み仮名や意味を加えています。

 ”さまざまな事柄が占われた”とありますので、儒教ではなくても、なんらかの思想的な意味合いを表わす文字として「仁」が用いられた可能性がないとは言えませんが、わたしの勝手な推論では、やはり、占いの記録として用いられていたと考えるのが自然なように思います。

 上記の古い字形を単純に見た場合「人が二人」ということを表わしていると考えられ、「人は二人でいいか、人が二人必要か」ということを占いによって知ろうとし、その結果を今の字形では「仁」と記したのではないかと推察します。例えば、「神に捧げる生け贄は二人でいいかどうか」を占ったのではないでしょうか。あくまでもわたしの勝手な推察ですが<苦笑>。
 そういう意味かどうかは別にしても、上記の字形が記録として残り、時代が進んで儒教が起こり、「他者に対する思いやりや慈しむ心」を表わす字形のひとつとして「仁」が選ばれたのかもしれません。
 「仁」の異体字は複数あって、「二+心」「千+心」「尸+二」「人+心」「身+心」という組み合わせです。*スマホやパソコンで表示できない文字があるため、このような表記にしました。どの字形も「心」が下に書かれてあります。
 このように、儒教の思想のひとつを漢字で表わそうといろいろ工夫されたのだと思いますが、結果として、甲骨文字にあった「人+二」という組み合わせの字形「仁」が最終的に選ばれたのだろうと思います。
 余談ですが、先日、NHKスペシャル「私の往生際 養老孟司が見つめた“生と死”」という番組を観ました。その中で、「ひとりで生きているみたいに思ってたんだけど、そうじゃないんですよね」という一言を、噛みしめるようにして語られていらっしゃったのが印象的でした。まさに「仁」ということなのかなあと思ったしだいです。
 他者の存在があって、自分が存在する。そういった哲学的な意味合いを表現する字形として「仁」が選ばれたように思っています。

 以上で、「仁」についてを終わります。

*参考資料
『Wikipediaー甲骨文字ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2%E9%AA%A8%E6%96%87%E5%AD%97
『Wikipediaー殷ー』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%B7
『NHKスペシャル PR』*動画ではなく、簡単な内容紹介です。
https://www.nhk.jp/g/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/paJnovBDza/bp/pnDDjENG3n/
『「仁」のはなし:かんじのはなし』yumemivison
https://yumemivision.blog.jp/archives/27190473.html
『古代王朝 殷』クロマニヨン
https://www.cromagnon.net/yin-dynasty/
『漢語多功能字庫』<仁>
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E4%BB%81
『漢字源流|中華語文知識庫』<仁>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E4%BB%81
『小學堂|字形演變󠄀』<異体字表・仁>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/variants?kaiOrder=78

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