四字熟語「売剣買牛」について調べていたところ、「循」という漢字が気になりました。四字熟語にある漢字ではありませんが、興味深いことがわかったので、記録しておきたいと思います。
また、「直」についても新しい発見というか、「もしかしたら、こういうことなのかも?」という気づきがあったため、合わせて、解説したいと思います。
まず「循」の組み合わせですが、次のようになるかと思います。
「彳󠄀(ぎょうにんべん)」+「盾(ジュン、たて)」
「彳󠄀」は漢字の部首となって、道、道を行く動作などに関する意味を表わします。
「盾」は矢・刀・槍(やり)などでの攻撃から身を守る武具のことです。
「循」という漢字を目にしたときに思い浮かぶのは「循環バス、循環器、循環型社会」などといった「めぐーる(巡る)、回る」という意味合いの熟語ですが、基本的には「したがーう(従う)、頼りとなるものに寄り添う、あとについて行く」といった意味のようです。
さて、問題となるのは「盾」です。「循」は形の上では「彳󠄀+盾」の組み合わせになりますが、「盾」と「循」の一番古い(と思われる)字形を見てみると、


最初の字形が「盾」で次が「循」ですが、どう見ても「彳󠄀+盾」のようには見えません。
そこで、『漢字源流|中華語文知識庫』の「循」の解説を読んだところ、
”甲骨文字の字形は「彳」と「直」から成る。「彳」は道を表し、転じて歩くことを意味する。「直」は「直」の本来の形であり、目が物を見ることを表す。この二つが組み合わさることで、まさに歩きながら観察するという意味を表している。”*DeepLで翻訳。
翻訳の精度にやや問題もあるかと思いますが、「循」の元々の組み合わせは「彳󠄀+直」だったということは新しい発見でした。
この解説を元に、ここからはわたしのいつもの勝手な推論です。
わたしが思うに「盾」の一番古い(と思われる)字形は、そのままの形では意味が伝わりにくかったのではないかと思います。
そのため「盾」のもうひとつの古い字形

が元となり、現在の「盾」のような字形が作られていったのではないかと思います。
『漢字源流|中華語文知識庫』によると、この字形は
”虎賁(こほん)の士が盾を構える姿を象っている。戦場で敵を討つ将士たちの勇猛さと威厳を強調するため、虎の形を用いて勇士を表している。*DeepLで翻訳。
「虎賁」は古代中国の官名のひとつ。虎士(勇士)八百人をもって王の護衛にあてたもの。猛虎が走るように勇猛である意。『精選版 日本国語大辞典』より。
とのことです。そして、時代が進み、次のように変化しました。

上の部分が「盾」そのものを表わし、下の部分はかなり簡略化され、「目」を強調することによって「虎賁(こほん)の士」を表わそうとしたのではないかと推察しています。そして、その結果、「直」の一番古い(と思われる)字形とほぼ同じような形になったのではないかと思います。

これが「直」の一番古い(と思われる)字形です。そして時代が進むと、次のような字形も現れました。

これがなんとも微妙な字形で、左側の曲線はおそらく「直」の「L」の部分だろうとは思うんですが、「盾」の形と言われればそう見えなくもないという感じです。そこで、「直」と「盾」を改めて比較してみます。
「直」:「盾」
う~ん、やはりよく似ています。「直」の下の「L」を右に90度回転させて上に置くと、「盾」になるような・・・。
このことから言えることは、字形が変化していく過程において、どこかで混同が生じたのではないかと考えました。従って、元々は「循=彳󠄀+直」だったものが「循=彳󠄀+盾」となり、現在に至っているのではないかと推察しています。
ちなみに「彳󠄀+直」という漢字があるかどうか調べたところ、ありました!「徝」という漢字で、音読みは「チ・チョク」。意味は「ほどこす、のぼる」というような意味でした。訓読みはなく、日本では日常的には使われなくなってしまった漢字と思っていいようです。
それからもうひとつ、気になる点があります。「盾」の常用の音は「ジュン」ですが、「トン」という読みもあり、「辶」と組み合わせて、
・遁走(トンソウ):負けたり追いかけられたりしてにげること。『漢字源 改訂第五版』
・隠遁(イントン):煩わしい俗世間との関係を絶って静かに暮らす。『漢字源 改訂第五版』
というような熟語があります。
ではなぜ「トン」という音読みがあるのかですが、「盾」の異体字のひとつになにかヒントがあるように思いました。

そして、この異体字の元になっている古い字形は次のようなものです。

わたしの勝手な推測によると、「盾」の古い字形に含まれる「虎」の象形

が、時代が進む中で「豚」と解釈されたのではないかと思います。そのため「盾」が含まれて「トン」と読む漢字「遁」は「のがれる(逃れる)、逃げる、隠れる、しりぞく(退く)」などといった意味を持つように思います。
以上で「循」については終わりたいと思います。
なお、「直」についてですが、ひとつ気になったことがありましたので、備忘録として残しておきます。
以前、「徳」と「直」:教育&常用漢字、漢検6級&9級というタイトルで調べたことがありますが、改めて読み返したところ、特に問題はなかったんですが、ただひとつ、付け加えておきたいことがあります。それはなにかというと、「直」に「目」が含まれているため、”見る”という意味が強調されてしまいますが、実はそうではなく、”まっすぐ”という意味を表わすためのものであるという点です。
いわゆる”目線”は、目に見えませんが、それはまさに”まっすぐ”です。それを表わしているのが、

という字形なのだろうと思いました。
以上です。
*参考資料
『「盾」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/21576545.html
『「遁」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/21596996.html
『漢字源流|中華語文知識庫』<循>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E5%BE%AA
『小學堂|字形演變󠄀』<「盾」の異体字表>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/variants?kaiOrder=1381
『小學堂|字形演變󠄀』<「盾」の字形演變󠄀>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=1381
『漢字源流|中華語文知識庫』<盾>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E7%9B%BE
『小學堂|字形演變󠄀』<「直」の字形演變󠄀>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=1034
『漢字源流|中華語文知識庫』<𥄂(直)>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E7%9B%B4

コメント