「取」について

 四字熟語「舎短取長」の「取」について調べてみました。

 今回は、まず「取」の一番古い(と思われる)甲骨文字を見てみます。

つながっているため、わかりにくいかもしれませんが、左半分が「耳」で右半分が「手」です。この組み合わせからも判断できるかと思いますが、「取」の組み合わせは、
「耳」+「又(手)」
とされていて、わたしが調べたかぎりでは、どの辞典類も同じ見方をしています。
 ですから、この組み合わせについては異論はないと思うのですが、問題なのは「耳」が「人の耳」か「動物・獣(けもの)の耳」かで意見が分かれている点です。この二つの見方についてそれぞれ一例を挙げます。
*「人の耳」:『漢語多功能字庫』
”甲骨文・金文の字形は「耳」と「又」から作られ、耳の形をした物を手に持っている様子を表しており、本来の意味は「捕らえる」または「奪う」である。古代の戦争では、捕虜を捕らえてその耳を切り落とし、人数を数えて勝利を記録していたことから、この字の意味は「取る」や「得る」といったあらゆる意味へと広がっていった。” **中国語原文をDeepLで翻訳し、修正しています。

*「動物・獣(けもの)の耳」:『Wiktionaryー取ー』
”会意。「耳」+「又(手)」。狩猟の成果として動物の耳を切断する風習[字源 1]に由来する字形。「とらえる」「つかまえる」を意味する漢語{取 /*tshoʔ/}を表す字。
「戦争で敵(捕虜)の耳を戦果として集めたことに由来する」と説明されることがある[字源 2]が、この風習は後の時代の創作である。耳の切断は野獣に対する行為であり、人間に対して行われた記録はない。[字源 3]
[字源 1]『周礼』夏官・大司馬 「大獸公之、小禽私之、獲者取左耳。」
[字源 2] 季旭昇撰 『説文新証』 芸文印書館、2014年、209頁。
[字源 3] 王鵬遠 「説“聝”」 復旦大学出土文献与古文字研究中心網、2022年8月6日。”

 専門家・研究者のあいだで分かれている説について、どちらが正しいか判断できませんが、「こういう見方がある」ということを知った上で、子どもたちに教えてもらえたらと思います。

 では、ここからはわたしのいつもの勝手な推論です。

 結論から先に言うと、耳は、”取る、得る、捕まえる”といった、その対象となる人あるいは動物を表わすための記号的なものではないかと考えます。また、「取」には”切る、切り落とす”といった意味は含まれていないように思います。

 その根拠となる字形が
聝(馘󠄀)
です。この漢字は音読みが「カク」、訓読みは「みみきーる、くびきーる」です。訓読みからもわかるように、「耳、あるいは首を切り取る」ことを意味する漢字です。

 この漢字について『漢語多功能字庫』に次のような解説がありました。
”甲骨文・金文は「耳」と「戈」を組み合わせたもので、戈で耳を切り落とす様子を表している。”
”字形が変化していく中で「戈」が「或」へと変化した。”
”「聝」は耳を切り落とすことを指し、「馘」は首を献上することを指す。両者はしばしば互換的に用いられ、また同一文字の異体字でもある。” 
*DeepLで翻訳したものから一部抜粋し、修正を加えています。

 それからもうひとつ興味深い字形が『小學堂|字形演變󠄀』<聝>にありました。次の一番古い(と思われる)字形を見てください。

これだけ見ると耳も首もなく、何かわからないと思いますが、おそらく髪の毛が逆さに垂れた様子を表わしているようです。そして、そのことは、敵を倒したことの証(あかし)として耳を切り落とす、あるいは首を切るという行為をも意味しているのだと思います。
 そう考えると、「取」という字形の場合も、その形は、敵を倒したあと、切り取った頭部を手にしていることを表わしているのではないかと推察しています。

 以上で「取」についてを終わります。

*参考資料
『「取」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/28039129.html
『常用漢字論ー白川漢字学説の検証』<取>
https://gaus.livedoor.biz/archives/12864998.html
『Wiktionary』<取>
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8F%96
『小學堂|字形演變󠄀』<聝(馘󠄀)>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=9548
『漢語多功能字庫』<聝>
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E8%81%9D

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