「舎」と「余」

 四字熟語「舎短取長」の「舎」についてと、それに関連して「余」についても調べました。「余」については、以前「道聴塗説」の「塗」について調べたときにも調べました(「塗」について、+「余」「途」)が、「舎」との関連性から新しい発見などもありましたので、ここでも改めて記しておきたいと思います。

 では、まず「舎」の現在の字形を単純に分けた場合、
「𠆢」+「土」+「口」
になるかと思いますが、それがそう簡単ではありません。最初の「𠆢」は「ひとやね」と言って、部首ではいわゆる「人(ひと、ジン)」になります。そして、その下にある「𠮷」のように見える部分は「土」と「口」に分けるのではなく、「舌(した)」とされています。これは「舎」の旧字体が元になっているためだと思われます。
「舍󠄀」
これが「舎」の旧字体です。辞典類には「旧字」と書いてありますが、ただ単に古い字ということではなく「舎」本来の字形と考えたほうがいいと思います。
 なお、「人(ひと)」や「𠆢(ひとやね)」「舌」はあくまでも辞典類での分類上の都合ですので、成り立ちや意味には関係がないと思っていいと思います。

 では、旧字体の「舍󠄀」はどのような組み合わせ・成り立ちになっているかというと、
「余」+「口」
と考えられています。なお「口」は人体の「くち」ではなく、「ある場所」を示す形だと考えられています。そして、問題となるのは「舍󠄀」と「余」の関係です。
 わたしが調べたかぎりでは、一般的にまず「余」の字形が作られたあと、それに「口」という字形を加えて「舎」という字形が作られたと考えられているようです。しかし、わたしは「もしかしたら逆ではないか?」と考えました。
 いつもはそれぞれの古い字形を元に推察していくんですが、今回は先に意味を比較してみようと思います。今回は『漢検漢字辞典 第二版』を元にして、他の辞典も参考に、意味を追加したりしています。

「舎」:
①いえ(家)。やど(宿)。たてもの(建物)。
②身を寄せる。仮に住む。
③軍隊の一日の行程。軍隊が一夜宿営すること。
④おく(置く)。すえおく(据え置く)。捨てる。
⑤いこう(憩う)。休息する。

「余」:*この字形は二つの系統に分かれます。
A[餘󠄀]*餘󠄀の省略形としての「余」
①あまる。あまり。のこり(残り)。ゆたか(豊か)。ひま(暇)。
②ほか(他)。それ以外の。
B[余]
①われ(我・吾)。自分。

 こうして「舎」と「余」の意味を見ていると、わたしは「舎」の①~③の共通点「建物」が元になっているように思えます。
 例えば、「舎」の④⑤においても、仮の建物を建てる=置く、仮の建物であるから=捨てる、という意味が派生したと考えられます。また「余」のAでは、食べるものがあって住む家もある=豊か⇒余る⇒他、というふうに派生したと考えられますし、自分の家=われ、というふうにも考えられます。
 つまり、先に「舎」という字形が作られ、その上の部分を使って「余」という字形を作ったと推察しています。ただ、それがほぼ同時期なのか、時間が経ってからなのかまではわかりませんでした。

 では、上記のわたしの勝手な推論の元になっている「舎」の一番古い(と思われる)字形を見てください。*『漢字源流|中華語文知識庫』からお借りしています。

これは甲骨文として掲載されていて、次のように解説されています。*中国語原文をDeepLで翻訳し、それをわかりやすくするために加筆修正しています。
”上部が屋根、中央が梁(はり)や柱、下部が礎石(そせき)を象(かたど)っていて、具体的な実物を基に造字されている。六書の中では象形に属する。”

 そして次の字形はこの字形のあとに作られたと思われる金文という字形です。

それから「余」の一番古い(と思われる)甲骨文の字形をみてみます。

最初に意味の確認をしましたが、「余」は、いわゆる「建物」の意味には現在使われていません。それにも関わらず、成り立ちは、
”甲骨文の字形は家屋の形で、上部は屋根の棟(むね)を、下部は柱を表している。”
というように「建物」の形とされています。この点からおそらく「舎󠄀」が先に作られ、その上部の屋根や柱の部分であることから「建物」と見なされているように思います。
 なお、『漢字源 改訂第五版』『新漢語林 第二版』では、この「余」の古い字形は「スコップ」「先の鋭い除草具」、「塗る」に含まれる「余」は「こて」「スコップ」の形とされていて、「舎󠄀」の構成要素としての「余」は単なる音符で意味はないとされています。
 このことをどう判断すればいいのか、わたしにはわかりませんが、わたしの推論では「余」の成り立ちは建物の屋根や柱の部分と解釈するほうが理解しやすいです。『漢字源流|中華語文知識庫』の他、『漢語多功能字庫』による「舎󠄀」と「余」の成り立ちの解説でも、両字とも建物の形としていることが判断の根拠になっています。

 以上のわたしの勝手な推論を箇条書きにまとめると、次のようになります。

・「舎󠄀」と「余」では、「舎󠄀」が先に作られた。
・その後、「舎󠄀」とは異なる意味を表わすために、上部を使って「余」が作られた。
*なお、「余」に加えられている二点は字形のバランスをとるために加えられたもので特に意味はないと推察しています。

 以上です。

*参考資料
『「舎(舍)」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/13703643.html
『「余」のはなし:かんじのはなし』yumemivision
https://yumemivision.blog.jp/archives/13644332.html
『常用漢字論―白川漢字学説の検証』<舎>
https://gaus.livedoor.biz/archives/12681947.html
『常用漢字論―白川漢字学説の検証』<余>
https://gaus.livedoor.biz/archives/27067117.html
『かーきアサヒの建築手記ー中国古建築をざっくりと分かる記事ー』
https://asahi-kaki.hatenablog.com/entry/2021/03/01/150536
『小學堂|字形演變󠄀』<舍>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=1062
『小學堂|字形演變󠄀』<余>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=477
『漢字源流|中華語文知識庫』<舍>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E8%88%8D
『漢字源流|中華語文知識庫』<余>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E4%BD%99
『漢語多功能字庫』<舍>
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E8%88%8D
『漢語多功能字庫』<余>
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E4%BD%99
『DeepL翻訳』
https://www.deepl.com/ja/translator



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