四字熟語「文質彬彬」の「質」について調べてみました。
常用の音読みは「シツ、シチ、チ」です。常用の訓読みはありませんが、「ただーす、たち、もと」と読んだりもするようです。
意味については、『漢検漢字辞典 第二版』を参考にしました。
①もと。もとになるもの。ものの内容。中身。実体。
②生まれつき。もちまえ。たち。
③きじ。ありのまま。
④問いただす。
⑤しち。約束や取り引きの保証として預けておくもの。かた。抵当(ていとう)。
そして、問題となるのは、やはり成り立ちでした。
「質」の組み合わせを単純に見ると、
「質」=「斤」+「斤」+「貝」
になるかと思います。これだけなら、なんの問題もないんですが、実は他にもうひとつ、説があります。それは、
「質」=「斤」+「斤」+「鼎(テイ、かなえ)」
とし、「貝」は「鼎」の省略形とする説です。
また、「斤」については、
・何かを切る・刻む道具としての「斧(おの)」とする説。
・重さの単位とする説。
・割り符(斦ギン)とする説。
という見方があります。
どれも、それなりの解釈があって、わたしもわたしなりに考えてみましたが、結局、判断できませんでした。ですので、それぞれについて調べたことを書き記しておきたいと思います。
では、それぞれの解説です。
「斤」+「斤」+「貝」
この組み合わせを『漢字源 改訂第五版』では次のように解説されています。
”会意。斤(キン)は、重さを計る重りに用いたおの。質は「斤二つ(重さが等しい)+貝(財貨)」で、Aの財貨と匹敵するだけの中身が詰まったBの財貨をあらわす。名目に相当する中身が詰まっていることから、実質、抵当の意となる。”
「斤(キン)は、重さを計る重りに用いたおの。」とは?
「おの」は「斧」で、木を切る道具、戦いに用いる武器、罪人を処刑する道具のことを指しますが、「斤」は木を切る道具という理解でいいと思います。
では、なぜ「斤」が重さの単位として使われるようになったのかですが、おそらく当時は「斤」が生活の中でよく使われていて、その重さが一定であり、表わしたい単位に見合った重さだったのだろうと推察しています。
ちなみに、今でもパンの重さを「一斤」などと言い表していますので、なじみ深い単位ではあると思います。
次に、
「斤」+「斤」+「鼎」
という成り立ちについて解説していきます。
「鼎」とは?
「鼎」は音読みで「テイ」、訓読みは「かなえ」です。『精選版日本国語大辞典』にわかりやすい解説がありましたので、一部引用します。
”古代中国で、飲食物を煮るのに用いた金属製の容器。二つの耳と三本の足をもつ。古くは土器であり、飲食物を煮るだけに用いたが、のち、祭祀用になった。特に、夏の禹王(うおう)が九か国の銅を集めて九鼎を作ってから、王位、帝位を表わすようになった。”
では、この「鼎」と「斤」で、その成り立ちがどう解釈されているのかですが、白川静氏の『常用字解』と『角川新字源 改訂新版』がほぼ同じですので、『角川新字源 改訂新版』の解説を紹介します。
”会意。貝(鼎〈テイ、かなえ〉の省略形)と、斦(ギン、二つのおのを並べた形)とから成る。かなえにおので文字を刻むことから、誓い・保証の意を表す。”
この解釈については、文字を刻むのになぜ二つのおのが必要なのかと疑問を呈している専門家の方もいらっしゃいますが、これはおそらく、契約を結ぶさいは双方が署名をするということを表わしているのだろうと推察しています。
以上、「質」の成り立ちの二通りの解釈でした。
では、なぜ、このように解釈が異なってしまったのか。「質」「貝」「鼎」の順で、関連する古い字形を並べてみます。なお、古い字形は三つとも『小學堂|字形演變󠄀』からお借りしました。また、「質」の一番古いと思われる字形が西周晩期のもののようですので、「貝」「鼎」もできるだけその時代に近いと思われる金文(きんぶん)の中から選びました。



う~ん、なんとも微妙な字形です<苦笑>。説が異なるのもわかるような気がします。
以上、まとまりのない解説になってしまいましたが、このへんで終わりにしたいと思います。
*参考資料
『度量衡』コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E5%BA%A6%E9%87%8F%E8%A1%A1-106567
『中国古代度量衡における黄鐘律管と累黍(<特集>第22回科学史国際会議(2005年,北京)計量史学術講演論文)』丘 光明、コンラッド ヘルマン 著、松本栄寿 訳、計量史 研究28−1[31]2006、国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/10632091
『鼎』コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E9%BC%8E-45704
『小學堂|字形演變󠄀』<質>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=4060
『小學堂|字形演變󠄀』<貝>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=700
『小學堂|字形演變󠄀』<鼎>
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=3369
『常用漢字論―白川漢字学説の検証』<質>
https://gaus.livedoor.biz/archives/12650458.html
『Wiktionaryー斦ー』
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%96%A6
『漢字源流|中華語文知識庫』<質>
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E8%B3%AA

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