暴:教育&常用漢字、漢検6級

 「一暴十寒」という四字熟語を調べているとき、「暴」の成り立ちについて興味深いことがわかりましたので、まとめてみたいと思います。

 成り立ちを説明する前にまず意味の確認をします。『漢字源』「漢語林』『角川新辞源』の3冊に載っている主な意味を抜粋して箇条書きにしました。

・荒々しい。猛々しい。激しい。厳しい。
・暴れる。撃つ。
・突然。たちまち。はやい。
・そこなう(害)。
・虐(しいた)げる。酷(むご)い。犯す。凌(しの)ぐ。
・悪い。邪(よこしま)。
・風雨にさらす。雨ざらしにする。むき出して日にさらす。
・むき出しにして見せる。
・度をすごす。不当な。
・暴(あば)く。明らかにする。あらわれる。知れる。
・乾(かわ)く。枯(か)れる。
・日に当ててかわかす。日に当ててあたためる。外に出しておく。

 次に成り立ちをみてみます。本当は古い字形を提示したかったんですが、著作権の問題でできませんでした。成り立ちについて詳しいサイト名とアドレスを書きますので、グーグルなどの検索ボックスにコピー&ペーストして見てください。
・小學堂字形演變󠄀 「暴」
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=3872
・中華語文知識庫ー漢字源流ー
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E6%9A%B4

 小學堂字形演變󠄀の「暴」のページをみると、まず3つの異体字があります。それぞれここでは表すことができませんでしたので、組み合わせをみてみます。
1.日+出+大+米
2.鹿+火+日
3.盍(去+皿、おおーう)+月(肉が偏になった[にくづき])+戈(ほこ、*武器のひとつ)

 他にもありますが、これだけ違いがあるということは、最初に示した「暴」の意味を表そうと、相当苦労されたんだなあということがわかるかと思います。
 一方、中華語文知識庫ー漢字源流ーにある「暴」の一番古い字形のひとつは今の字形とほとんど変わりません。もうひとつは、「米」が「未(ひつじ)」のようにもみえます。

 ここで、各辞典の成り立ちの説明を比べてみます。
『漢字源 改訂第五版』
・会意。金文では、もと「日+動物の体骨+両手」で、動物のからだを手で天日にさらすさま。篆文(テンブン)からのち、その中の部分が「出+米」のように誤って伝えられた。
『新漢語林 第二版』
・会意。日+出+米+廾。日は、太陽の象形。廾は両手の象形。出+米の部分は、動物をさいた形にかたどる。動物の毛皮などをさき開いて、日にさらすさまから、日にあててかわかすの意味を表す。この作業のあらあらしいさまから転じて、あらい・にわかの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
・会意。日と、米(こめ。氺は誤り変わった形)と、(共は変わった形。両手に持つ)とから成る。米を両手に持って日光に当ててかわかす、「さらす」意を表す。借りて、あらあらしい意に用いる。

 以上、3冊の成り立ちをみてみると、「日にさらす」は共通点のようです。では、その「さらす」対象になるものはというと、動物か米かにわかれるようです。これはどちらが正しいというよりも、どの時代のどの字形をもとにするかで違ってくるように思います。肝心なのは「日にさらす」という行為のようです。

 しかし、「日にさらす」ことが、なぜ、最初にみた「暴」という意味につながっていくのか、わかりません。

 そこで、「暴」の意味を手がかりに、いろいろ調べていたところ、自分なりの答えが見つかりました。あくまでもわたしの勝手な憶測ですが、思考の過程として残しておきたいと思います。

 わたしは、この「暴」という漢字は、当時の古代中国で発生していた災害に関する漢字ではないかと考えました。災害には、旱魃(かんばつ)あるいは日照り、洪水、地震、更には蝗害(こうがい、トノサマバッタの大発生による害)といった天災があり、天災は皇帝の不徳によるものとされていたとのことで、各時代の王朝はこの対策に取り組み、発生した天災の記録を残したそうです。
 そう考えると、動物が日にさらされている状態というのは、単に乾かしているというよりは、日照りで餓死した状態なのかもしれません。また、お米も同様に旱魃による被害のことを表そうとしたのかもしれません。
 いずれにしても、上述の3冊の辞典にある「暴」の成り立ちをもとに、「暴」の意味ができたのではなく、まず先に「暴」という意味を表そうとして、いろいろな成り立ち(組み合わせ)が時代時代に合わせて考えられたと考えたほうがいいように思います。

*参考資料
世界の壊滅と再生─中国神話における自然災害、楊 利慧、山田 仁史 訳、東北大学機関リポジトリTOUR
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/records/130042
中国の治水―神話の時代から―、坂井 多穂子、東洋大学学術情報リポジトリ
https://toyo.repo.nii.ac.jp/records/11952


 

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