抜:常用漢字、漢検4級

 「助長抜苗」という四字熟語に含まれる「抜󠄀」について調べてみました。今回も不明な点があって、納得できる結論には至りませんでしたが、思考過程だけでも残しておこうと思います。

 まず、「抜」の意味を確認します。『漢字源 改訂第五版』より抜粋。
①ぬ―く。ぬ―ける。うずもれたものや隠れたものをぬき出す。多くのものの中からそのものだけを引きぬく。髪の毛などがぬけ落ちる。
②ぬ―ける。そのものだけぬけ出る。ぬけ出す。ぬきん出る。
③ぬ―く。邪魔なものや立ちはだかるものを取り除く。

 基本的に「抜く」という意味でいいと思います。

 では次に成り立ちです。今の字形を見ると、
抜=扌(手)+友
のように思ってしまいますが、実は、友だちの「友」ではなく、「犮」という漢字です。
拔󠄁=扌(手)+犮(ハツ)
 「拔」は「抜」の旧字体で、現在は友だちの「友」に置き換えられています。ですから、手と友との組み合わせで成り立ちを考えると説明がつきませんので、注意が必要です。

 「扌(手)」は体の一部で「手(て)」を意味し、「扌(てへん)」になって、手の各部分の名称や、手の動作に関する文字が作られます。

 問題なのは、「犮」です。この漢字は、
犮=犬+丿(ヘツ)
 犬は動物のイヌです。それに、右から左に払ったように書く文字があって、これは「ヘツ」と読むようです。これを単漢字として用いることはないそうで、『角川新辞源』によると、「右から左にはらう」という意味の指事文字だそうです。
 そして、「犮」は象形文字あるいは指事文字として、その成り立ちは、

①犬をはりつけにしたさまにかたどったもの。
②犬がはねた後足に印をつけて、ぱっぱっと後足ではねることをさし示したもの。

の2つに意見が分かれているようです。

 ①だとすると、犬を犠牲や生け贄として、お祓(はら)いをすることを意味しているのだろうと思いますし、②だとすると、犬が排泄(おしっこやうんち)をしたあとに後ろ足で蹴るような動作をすることがありますが、その動作があたかも排泄物の処理をしているかのようにみえたのかもしれません。ちなみにこの習性はマーキングといって自分の臭いを周囲にまき散らしてなわばりを主張する行動とのことですが、当時の人たちがそう判断していたかどうかはわかりません。

①②のどちらが正しいのかの判断はわたしにはできませんが、いずれにしても、「犮」には「払う」という意味が与えられたのだと思います。

 以上のことをふまえて、改めて「抜」という漢字をみてみると、「手で払う」ことが「手で取り除く」という意味になり、それが「抜く」という動作にもつながるように思います。

*参考資料
『イヌから見た中国古代の社会と文化』益満義裕、学習院大学学術成果リポジトリ
https://glim-re.repo.nii.ac.jp/records/2565
『犬が排泄後に地面を蹴る理由とは? 獣医師に聞いた』いぬのきもち、ベネッセコーポレーション
https://dog.benesse.ne.jp/withdog/content/?id=107975


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