「徳」と「直」:教育&常用漢字、漢検6級&9級

 「徳」という漢字は、「あの人は徳がある」「徳の高い人」「道徳」などのように使われますが、では、「徳」にはどんな意味があるのかと聞かれると、端的に答えることが難しいです。
 そこで、まずは漢字の成り立ちの面から調べることにしたのですが、いろいろと面白いことがわかったので、それを記録しておきたいと思います。

 まず、「徳」と意味・発音は同じですが、字体が異なる漢字(異体字)がありました。
德󠄀
𢛳
悳󠄀

 最初の「德󠄀」は、「徳」に「―」が加わっただけですが、次の二つの字形には「ぎょうにんべん(彳󠄀)」がありません。いくつかの辞典をみてみると、「悳󠄀」が本字・古字・原字とされています。そして、「德󠄀」は「徳」の旧字で、「𢛳」は俗字・別体字というふうに分類されています。
 次に、「徳」の古い字形の甲骨文字をみてみます。

 上下左右にあるL字形のようなものは、十字路を描いたもので、「行く」という意味を表しています。なお、「徳」の古い字形には、左側だけの、いわゆる「彳󠄀」だけが描かれている文字もあります。
 では、真ん中にあるものは何かというと、「直」の古い字形です。

下に描かれているのが「目」で、上は縦(たて)の線「|」です。これで、「まっすぐに見る、まっすぐに目を向ける」ことを表しているそうです。

 ここで、疑問なのは、「徳」に含まれている「心」に当たる古い字形がありません。
 「心」の古い字形は、

で、時代が変わると、

のような字形となり、後にその字形が「徳」にも表れるようになりました。


 以上のような成り立ちから、「徳」と「直」は関係のある漢字のように思えます。どちらが先かは、わかりませんが、「直」には元々「徳」のような概念もあり、時代とともに、いわゆる、物理的に曲がっていない「まっすぐ」という意味に使う「直」と、「正しい心」といった「人の本性・性格」を表す漢字として、「心」を添えて、「徳」という漢字で表すようになったということなのではないかと考えます。

 字形的な疑問として、「徳」「直」に含まれる「十」ですが、元は「|」でした。それが時代とともに真ん中が少し膨らんだようになり、肥点(ひてん)といって黒い丸が付きました。なぜ付いたのかは不明ですが、もしかしたら、「何かを突き通す」というような意味を表したかったのかもしれません。この「肥点」は、今の漢字では「―(横線)」で表すようになったとのことです。
 一方、「徳」の一番古い字形を眺めていると、

もしかしたら、「行」の元となる十字路を表そうとして、「十」になったのでは?と考えたりもしました。ただ、これはわたしの単なる推測です<苦笑>。

 それから、「直」に含まれる「L(アルファベットの大文字のエル)」のような字形ですが、『漢字源』『新漢語林』の解字には、その説明が見当たりませんでした。『角川新辞源』によると、

「会意。目と、十(とお。多い)と、乚いん(=隠。かくれる)とから成る。多くの目でかくれているものを見ること。」

という解説がありましたが、『Wiktionary』の「直」のページを見ると、

『説文解字』では「十」+「目」+「𠃊」から構成される会意文字と説明されているが、これは誤った分析である。

とのことで、どちらが正しいのかよくわかりませんでした。そこで、また、わたしなりに考えてみたところ、やはり、「行」の元となる十字路の一部ではないかと思いました。
 それから、もうひとつの見方として、「徳」の旧字体と「直」の中国の字体が参考になりました。
德󠄀
このように、今の「徳」に「―」が加わっています。そして、「直」の中国字体ですが、

のように、「目」と「―」がくっついています。これを「徳」の旧字体のように分けたものがデザイン化されて、「𠃊」のようになったのではないかとも思いました。
 「―」がなぜ、「𠃊」のようになったのかというと、「旦」というような漢字の場合、「―」は地平線や水平線、平地などと言った意味合いになるため、あえて「𠃊」のようにしたのかもしれませんし、「𠃊」は一画で書けることから、字体のバランスが取りやすいということもあったかもしれません。
 いずれも推測にしかすぎませんが、思考の過程として、残しておきたいと思います

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