斉
「修身斉家」という四字熟語について調べていたとき、この「斉」の成り立ちが気になったので調べました。しかし、納得のいく解説がなかなか見つかりません。それで、自分なりに納得できる答えを考えてみました。
まず、この「斉」の一番古い字形ですが、

です。そして、この成り立ちをいくつかの辞書で調べたところ、
『角川新字源 改訂新版』
象形。穀物の穂がびっしり生えそろっているさまにかたどり、「そろう」、ひいて「ひとしい」意を表す。
『新漢語林 第二版』
象形。甲骨文でわかるように、穀物の穂がのびて、はえそろっているさまにかたどり、そろう・ととのうの意味を表す。
『漢字源 改訂第五版』
象形。◇印が三つそろったさまを描いたもの。のち下に板または布のかたちをそえた。
『字統 普及版』
象形。髪の上に、三本の簪笄󠄀(しんけい)を立てて並べた形。祭祀(さいし)に奉仕するときの婦人の髪飾りである。穂の形などではない。
という解説でした。
どうも納得がいかず、更に調べていたところ、
『かんじのはなし、https://yumemivision.blog.jp/archives/9701776.html』にたどり着きました。このページは漢字の成り立ちの理解に行き詰まったときなど、いつも参考にさせていただいていて、本当に頼りになりますし、感謝しています。
このページでは、「斉」の字形が時代と共に変化していく過程で、戦国時代に使われていた「斉」の古い字形と、「星」の古い字形が似ているということでした。ちなみに、星の古い字形のひとつは次のような字形です。

この字形よりも古い字形がありますが、それはまたあとの説明のときに紹介します。
このヒントを得て、仮説を立ててみました。それは、この

という字形は、「彗(すい)星」を表しているんじゃないかと。
古代中国では古くから天体観測が行われていたとのことですし、その記録を残すためにはこのような一字形で表すのが都合がよかったのではないかと考えました。
彗星は別名「ほうき星」とも呼ばれ、「彗」は「象形。先端をそろえたほうきを手にする形にかたどり、ほうきの意味を表す。」ということですから、前述の「穀物の生えそろっているさま」という成り立ちは、この「彗」の「先端をそろえたほうき」のことなのかもしれません。
時代が進み、言葉も増えていくにつれ、いろんな”星”を表す漢字が必要となり、「彗星」を「斉」一字で表すより、「星」を基本にして、「星」+「彗」で表すようになったのではないかと思います。そして、その結果、「斉」という字形ができあがったころには天体の”星”という意味では使われなくなって、現在のような意味で用いられるようになったのではないかと考えます。
ここでちょっと寄り道をします。
「星」を表す古い字形がもうひとつありました。それは、「晶」という漢字です。一番古い字形は、

です。この漢字は鉱物名の「水晶(すいしょう)」に使われますが、その成り立ちは、「象形。多くの星がかがやくさまにかたどる。ひかり、ひいて「あきらか」の意を表す。」とのことです。
改めて、「斉」と「晶」の古い字形を並べてみます。


こうして見てみると、「斉」は彗星で、「晶」は星が輝いているさまということがなんとなくわかってきます。同じ形が三つなのは、「三」が「3」という数を表す他、「いくつも」「たびたび」「多い」という意味にも用いられることから、太陽や月はひとつですが、星は数が多いということでこのようになったと考えます。
次に「星」の一番古い字形を見てみます。

そして、「生」の一番古い字形は、

です。ですから、両脇にあるものがいわゆる天体の「星」だろうと思います。
では、なぜ、生まれるという漢字が星に加えられたのかということですが、おそらく、太陽や月はひとつですが、彗星や流れ星などといった星たちは、流れては消え流れては消えていくのに、空を見上げると満天の星空。それはまるで星が生まれているように思えたのではないでしょうか。
ではなぜ「斉」という漢字が現在のような字形になったのかですが、上の部分の「文」という漢字は「斉」の一番古い字形「◇が三つ」の「◇」になんとなく似ているようにも思えます。それで、「文」の一番古い字形を見てみたところ、

のように、中に模様のようなものがありますが、外形は「◇」に似ています。
「斉」の上の部分は、「文」という漢字に置き換わっていますが、古い字形は、
齊
真ん中の「Y」のような部分が「◇」のようにも見えます。では、その両脇にある字形ですが、左側は「刀(かたな)」だろうと思います。そして、右側の「氏(シ、うじ)」のように見える字形も、おそらく「刀」を反転した形、デザインだろうと思います。薄い紙に「刀」と書いて裏返すと、右側のようになりますし、書くときに一画目を「ノ」のように払ったほうが書きやすいからだろうと思います。
ではなぜ、「◇」が「刀」に置き換わったかですが、「斉󠄀」の意味に「ととのえる、そろえる」という意味がありますから、「刀で切りそろえる」というふうに表したかったんじゃないかと思います。
それから、下の部分ですが、
齋(サイ)
という漢字に着目しました。この「齋」は、「心身を清めととのえる意を表す。」とのことで、この字形には「示」という漢字が含まれています。「示」の成り立ちも諸説あるようですが、共通して言えるのは、「何かを載せる台」のようなもののようで、祭壇などと解釈されるようです。その真偽はわかりませんが、「齋」と「齊」の意味の違いを字形の違いで表そうとしたのではないかと思ったりしています。
一方、「斉󠄀」の古い字形の、ある時代においては、「星」の下の部分の「生」に似た字形として「二」のような二本線が描かれていますので、その線が「斉󠄀」の字形に含まれているのかもしれません。
以上、長々とまとまりのない考えを書いてみました。
もちろん、この考えが正しいというつもりはありませんが、子どもたちに漢字の成り立ちを説明するさい、自分自身が納得できないと説明もできないという考えから以上のようなことを考えてみたしだいです。
*参考資料:
『台灣󠄀光華雑誌』「星空のタイムトンネルの彼方中国の古代天文学」
コメント