審:常用漢字、漢検3級


音読みは、「シン」。
訓読みは、「つまびーらか」。
意味は、
①あきらか。
②はっきりさせる。
というような意味があります。

この漢字の成り立ちですが、一般的には、
宀󠄀(ベン、うかんむり)(バン)
からできているとみていいと思います。「宀󠄀」は屋根(やね)や家をあらわしています。「審」の古い字形は「田」がない形となっていますので、その場合は、
宀󠄀(ベン、うかんむり)(バン)=宷
となります。この2つの成り立ちについては最後のほうでまとめて説明しますので、まずは一般的な成り立ちを前提として説明していきます。

 問題なのは、「番」です。この漢字は、
采+田
と見るのが一般的ですが、古い字形をみると、「田」は「口」のようにも見えます。そして、その成り立ちですが、
①獣のつめの象形で、放射状に広がる意味。田畑に種をまく意味を表す。『新漢語林 第二版』
②「*型に開き散るさま+田」で、さっと種を田にまくこと。『漢字源 改訂第五版』
 成り立ちを獣のつめの形とみるか、そうではないとみるかに分かれますが、散らばっている、あるいは広がっているという意味合いと、種をまくという点では一致しています。

 では、元に戻って、「審」の成り立ちをみてみます。
③番+穼(シン、*穴+木)。番は、播に通じ、ばらまくの意味。音符の穼は探に通じてさぐるの意味。深く物事の本質をさぐるために、要素的なものにばらばらにして、つまびらかにするの意味を表す。『新漢語林 第二版』
④会意。番は、穀物の種を田にばらまく姿で、播の原字。審は「宀(やね)+番」で、家の中に散らばった細かい米つぶを、念入りに調べるさま。『漢字源 改訂第五版』

 「審」という漢字を見ながら、①~④の成り立ちを読んでいると、青色のマーカーの部分にヒントがあるように思いました。そして、漢字の成り立ちに疑問を持ったときに参考にしている「かんじのはなし(yumemivision)」にたいへん参考になる解説がありました。以下、引用です。

「宷(シン)」は、構成要素からいえば屋内で米を口にしていたようにみえますが、字形の意図としてはコメを試食(?)することで、一般的にものごとを調査・査定する意味を表していたのかもしれません。穀物の審議会のようなものがあったのかもしれません(これは、まったくの憶測です)。」『「審」のはなし』https://yumemivision.blog.jp/archives/10737450.html


 このヒントをもとに、古代中国の農耕、特に稲などの穀物にかんする農耕の記事をインターネットで読んでいたところ、次のような記述に行き当たりました。以下、引用です。

「人類はその森と湿地草原のおりなす環境に適応し、森の中で定住生活を開始する。この森の狩猟・漁労民が植物栽培の技術をマスターし、新たな食料の獲得戦略を必要として、稲作農耕を誕生させたのである。森の狩猟・漁労民が最初に出会った野生イネは、完熟するとその実はただちに脱粒してしまい、食料にはならなかった。ところがその中に、突然変異で脱粒性を失ったものを発見したのである。彼らはその脱粒性を失ったものを選択的に集めることによって、栽培稲(Oryza sativa)を作りだし、稲作農耕への第1歩を踏み出したのである。」『長江流域における世界最古の稲作農業』
http://www.jiid.or.jp/files/04public/02ardec/ardec29/key_note3.htm

 つまり、「審」という漢字は、屋内で種籾(たねもみ)の選別をしている様子、或いは選別することを表そうとしたんじゃないかと考えました。これはわたしの憶測ですが、こう考えると、「審」という漢字がすんなりと理解できました。

 「審」の古い字形が「宷」であるとするならば、当初は屋内に選別された優良な種籾がある状態を表して、そういった選別作業をする時期であることを示そうとしていたのかもしれません。
 具体的にどのようにして選別していたのかまではわかりませんが、一般的に、水の中に入れて浮くか沈むかで判断する方法が考えられます。
 字形に関しては、「米」の上にある「ノ」は、もしかしたら、ちゃんと発芽する優良な種籾であることを表す「芽」なのかもしれません。また、「田」が添えられたのは穀物であることを特定するためなのかもしれませんし、「田」以前の古い字形は、「口」のような字形であることから、種籾を選別するさいの器(うつわ)を表そうとしたのかもしれません。

 以上、「審」についてあれこれ考えてみました。素人の浅はかな考えではありますが、漢字が作られていた古代中国の社会や文化、日常生活などに思いを馳せながら、漢字を眺めることの楽しさを改めて感じました。
 成り立ちに関しては、どれが正しいとか間違っているとかではなくて、自分なりに考えることの楽しさを、漢字学習を通じて子どもたちに感じ取ってもらえたらと思います。

*参考資料
『長江流域における世界最古の稲作農業』安田喜憲(国際日本文化研究センター)
http://www.jiid.or.jp/files/04public/02ardec/ardec29/key_note3.htm
『殷の稲作について─ 甲骨文字の再検討から浮かぶ水稲の重要性 ─』「農耕の技術と文化」28(2019): 19-24、池橋 宏
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/278670/1/nobunken_28_019.pdf
『「審」のはなし』かんじのはなし(yumemivision)
https://yumemivision.blog.jp/archives/10737450.html




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