「尚」と「向」

 「読書尚友」に含まれる漢字の「尚」についてです。この漢字の成り立ちもなかなかやっかいです<苦笑>。

 まず、意味の確認です。『漢字源 改訂第五版』『新漢語林 第二版』『角川新字源 改訂新版』の三冊をもとに意味をまとめてみました。
①くわ―える。なお。かつ(且つ)。その上に。かざる。そえる。
②ひさ―しい。上の時代から続いていて古い。遠い。
③こいねが―う。ねがう。したう。たのむ。希望する。このむ。あこがれる。
④たか―くする。たか―い。上に持ち上げる。格がたかい。程度を高める。
⑤とうと―ぶ。上をあがめる。うやまう。尊重する。

 成り立ちについても同様にまとめようと思いましたが、違いがわかりやすいようにそれぞれ掲載します。
『漢字源 改訂第五版』
会意。「向(まど)+八(わかれる)」で、空気抜きの窓から空気が上にたち上って、分散することを示す。上、上にあがるの意を含む。また、上に持ちあげる意から、あがめる、とうとぶ、身分以上の願いなどの意を派生し、また、その上になお、の意を含む副詞となる。
『新漢語林 第二版』
会意。八+向。八は、神の気配がくだるさまを示す。向は、屋内で祈るさまを示す。こいねがう・たっとぶの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
形声。意符八(わかれる)と、音符向キャウ→シャウとから成る。「ねがう」意を表す。

 どれが正しいかの判断はわたしにはできませんが、どの成り立ちも腑に落ちません。
 「八+向」という組み合わせは共通ですので、この組み合わせを前提にして「向」の成り立ちについて更に調べてみました。
『漢字源 改訂第五版』
会意。「宀(やね)+口(あな)」で、家屋の北壁にあけた通気孔を示す。通風窓から空気が出ていくように、気体や物がある方向に進行すること。
『新漢語林 第二版』
象形。家の北側についているまどの象形で、たかまどの意味を表す。卿(ケイ)に通じ、むくの意味に用いる。
『角川新字源 改訂新版』
象形。家屋の北側の高所に設けたあかりとりのまどにかたどり、高窓の意を表す。借りて「むかう」意に用いる。

 上記の「尚」「向」の成り立ちを総合して判断すると、

なんらかの建物と窓が描かれている字形+八

ということでしょうか。「向」の成り立ちは理解できましたが、「八」という字形が何を意味しているのかがよくわかりません。

 なんとか解決の糸口をつかもうと、「家」「窓」などと思いつくままに調べていたところ、ヒントになる資料が見つかりました。それは何かというと

風 水(ふうすい)です。

『日本大百科全書(ニッポニカ)』「風水説」の解説がわかりやすかったので、主な部分を抜粋・引用します。
・風水とは東アジアにおける一種の自然観・環境観をさし、その独特な環境判断や測定術を風水説という。
・中国殷(いん)周代の卜宅(ぼくたく)、周春秋戦国時代の地理・相宅、漢代の堪輿(かんよ)などにその淵源(えんげん)が求められる。
・風水説の特徴は、(1)環境が人間や死者(祖先)に対して強い影響を及ぼすとすること、(2)その影響が地形、水流、気候、地質、植生などの自然環境と、陰陽(おんみょう)、五行、八卦(はっか)、天干地支などの宇宙の運行との相関性をもって及ぶとすること、(3)さらにその影響が、現世の人間や未来の子孫に対し吉凶禍福を伴って現れるとすることにある。
・判断の対象は、大別して陰宅風水(墓地風水、墓相)と陽宅風水(住宅風水、家相)の2種がある。
以上、『日本大百科全書(ニッポニカ)』「風水説」の意味・わかりやすい解説より。コトバンク。

 以上のような解説を読むことによって、
「尚」=「八+向」
の組み合わせがわたしなりに理解できました。
 つまり、「八」は数字の「8」ではなく、気の流れを象っているのではないかと思います。そして、家を建てるさい、向きや環境(気の流れ?)を風水によって判断し、子孫繁栄や家族の幸福などを願う。そのことを意味する漢字として「尚」ができたのではないかと考えています。

*参考資料
『日本大百科全書(ニッポニカ)』「風水説」の意味・わかりやすい解説、コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E9%A2%A8%E6%B0%B4%E8%AA%AC-122971

 













 


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