「書」と「者」

 「読書尚友」という四字熟語にある「書」の成り立ち。調べる前は、「こんなの、簡単だ~」と思っていたんですが、これがけっこう難しくて苦労しました<苦笑>。今回はいつもの三冊の辞典の成り立ちを補足するような感じになるかと思います。

 ではまず「書」の成り立ちを三冊の辞典でみてみます。
『漢字源 改訂第五版』
形声。「聿(ふで)+(音符)者」で、ひと所に定着させる意を含む。筆で字をかきつけて、紙や木簡に定着させること。
『新漢語林 第二版』
形声。篆文は、聿+(音符)者。聿は、ふでの意味。音符の者は、しばをかき集めた形にかたどる。事物を集めてかきつけるの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
形声。聿と、音符者シャ→ショ(曰は省略形)とから成る。筆で物事をかきつける意を表す。転じて「ふみ」の意に用いる。

 三冊とも形声で、「書」の上部は「聿(ふで)」とみています。これに異論はありません。問題なのは「者」です。わたしはてっきり「聿+曰」だと思っていました。
 ではなぜ「曰」ではなく「者」なのか、単に音符なのか、と疑問に思いいろいろと調べてみました。そして、わたしなりの結論に達することができました。

 まず、「書」の古い字形をみて、そのあとに「者」の古い字形をみてみます。

 『新漢語林 第二版』によると「者=しばをかき集めた形」とのことですが、この、「しば」というのは「松の木」のことではないかと思います。昔は松の木を燃やして煤(すす)をとり、それに膠(にかわ)をまぜて墨を作っていたそうです。
 また、『漢字源 改訂第五版』に、「ひと所に定着させる」意を含むとありますが、これがもしかしたら膠(にかわ)のことを指しているのかもしれません。なぜなら、松の木を燃やして煤をとり、それを水で溶(と)いただけでは書いた文字は定着しないからです。
 このように見ていくと、「聿+者」という成り立ちが理解できました。
 一番下にある器のようなものは、墨を入れるものを表わしているように思います。
 つまり、「書」という漢字は、「ふで(ふで)」と「すみ(墨)」の会意(あるいは会意兼形声)文字で、「書く」という意味を表わしているのではないかと考えます。

 ところで、「書」の組み合わせにある「者」という漢字ですが、長い年月のあいだに、およそ30の字体の変遷がありました。そのため、『漢字源流|中華語文知識庫』の「者」の説明によると、「者」の字形は多様で、明確な解釈がありません、ということでした。ですから、今回の「書」との組み合わせによる解釈が、他の漢字との組み合わせに当てはまるかどうかはわかりません。その都度検討していきたいと思っています。

*参考資料
『中国 造墨史図説』綿谷正之
https://shirafuji.ac.jp/shirafuji_gakuin/wp-content/uploads/2023/04/201801watatani.pdf
『墨の始まり』上條雅峰
https://note.com/gaho_calligraphy/n/n185e4597dbd1
『墨』Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8

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