「縁木求魚」という四字熟語にある「求」について調べたところ、成り立ちについての解説に理解しにくい点があったことと、「裘(キュウ、毛皮でできた衣服)」と興味深い関係があることがわかったので、まとめてみたいと思います。
「求」の基本となる意味は「求(もと)める」です。この「求める」を元にして、次のような意味合いが各辞典にありました。
・自分のものにしようとする。
・さがす。さがしもとめる。
・ほしがる。のぞむ。こう(乞う、請う)。ねがいもとめる。
この他、『角川新字源 改訂新版』には
・まねく。よぶ。
・むさぼる。
・せめる。せめもとめる。
・つとめる。努力する。
というような意味もあり、求めるための行為や手段を意味しているのかなと思います。
『漢字源第5版』には、
・散らないよう、また、逃げないように引き締める。
という意味もありました。
それから、『角川新辞源』には、
・かわごろも(裘、毛皮の衣服)
が意味として挙げられています。
細かく分けるといろいろありますが、基本義は「求める」という理解でいいと思います。
次に3つの辞典にある成り立ちの解説をみてみます。
『漢字源 改訂第五版』
象形。求の原字は、頭や手足のついた動物の毛皮を描いたもの。毛皮はからだに引き締めるようにしてまといつけるので、離れたり散ったりしないように、ぐいと引き締めること。裘キュウ(毛皮)はその原義を残したことば。
『新漢語林 第二版』
象形。甲骨文・金文でもわかるように、さきひらいた毛皮の形にかたどる。裘の原字で、かわごろもの意味を表す。借りて、もとめるの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
象形。つりさげた毛皮の形にかたどり、かわごろもの意を表す。「裘」の原字。借りて「もとめる」意に用いる。
この3つの辞典の成り立ちをみるかぎりでは、「求」は動物の毛皮(の服)のこととしていますが、『Wiktionaryー求』と『小學堂ー求』の解説によると、「多くの足をもった虫」としています。
では、「求」と「裘」、それから「裘」に含まれる「衣」の古い字形をみながら、「求」の成り立ちと意味についてみてみたいと思います。
まず、「求」の古い字形を『小學堂』や『Wiktionary』でみると、

こんな感じです。これを動物の毛皮と見るか、多くの足をもった虫とみるかですが、それはあとにして、次に『中華語文知識庫ー漢字源流』にある「求」の一番古い字形をみてみます。

この字形、『中華語文知識庫ー漢字源流』では「裘」の古い字形と同じなんです。つまり、上記の2つの古い字形は、同じ「動物の毛皮でできた衣服」ということになります。
関連して、「衣」の古い字形をみてみます。

この字形に関しては、各辞典同じような字形です。
ここからはわたしの勝手な憶測です。
おそらく、最初に示した古い字形だと、時代の移り変わりなどの理由によって、動物の皮でできた衣服という意味がうまく伝わらなかったため、「衣」の古い字形に「毛」を示す線を加えて、その意味を表そうとしたんだと思います。しかし、それでもうまく伝わらなかったため、「衣」の古い字形の中に、動物の皮とも多くの足をもった虫ともとれる古い字形を加えて、「動物の皮でできた衣服」という意味を表そうとしたんだと思います。
そして、時代とともに、今度は「求める」という意味の漢字が必要になってきたため、「裘」から「求」を取り出して、「求める」という意味を当てたんだと思います。
では、なぜ、「求」に「求める」という意味を当てたのかですが、『Wikipediaー毛皮』に次のような記述がありました。以下、引用します。
「人類は旧石器時代から、狩猟を行い動物を食用にし毛皮を衣類として使用していたと考えられている。かつては防寒具として毛皮に代わるものはなかったと考えられており、特に寒冷な気候の北ヨーロッパなどでは、毛皮は生活に欠かせない必需品であった。」
地域は中国ではなく北ヨーロッパなどと書かれていますが、古い時代の中国においても同じような環境だったのではないかと考えました。
また、参考資料に挙げている「古代の皮革4.東・南アジア」には次のような記述がみられました。
「漢代に書かれた『西京(せいけい)雑記』(劉きん著)では、裘は水に入りて濡れず、火に入りて焦げず、たいてい麑(しかのこ)および狐兎等の毛皮を用いるとある。子羊や熊等の毛皮も使用された。周の冠服制度では、王・侯以外の者は狐白裘(こはくきゅう、狐の脇の下の皮を集めて作った衣)は使用を許されなかった。」
こういった背景があって、「求」に「求める」という意味が当てられたのかもしれません。
より良いものを欲しいと願う心は今も昔もかわらないものですね(^_^)
最後になりましたが、「求」の古い字形が動物の毛皮あるいは多くの足をもった虫かについてははっきりとしたことはわかりませんでしたが、毛皮の服と同様に、蚕(かいこ)の幼虫が作り出す糸からできた絹織物も貴重でしたでしょうし、寒さを防ぐことができたのかもしれませんので、どちらが正しいとかではなく、時代によって異なっていたと考えたほうがいいかもしれません。
あ、それから、最後の最後に、「求」の右肩にある「`」についてですが、わたしは次のように考えています。あくまでも私見です<笑>
「求」の字形の変化の過程で、次のような字形が見られます。

「求」の一画目の線がコのようになっています。これが切り離されて「`」になったのだと思います。それと、筆で書くことを考えると、「コ」のように書くのは難しく、それよりも、一画目を横にまっすぐ書いて、最後に点を打ったほうが書きやすいように思います。
*参考資料
「古代の皮革4.東・南アジア」元北海道大学農学研究科、竹之内 一昭、東京都立皮革技術センター
https://www.hikaku.metro.tokyo.lg.jp/Portals/0/images/shisho/shien/public/156_2.pdf
「毛皮」、Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%9B%E7%9A%AE
小學堂字形演變󠄀*上から順に、求・裘・衣の字形変化
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=633
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=3245
https://xiaoxue.iis.sinica.edu.tw/yanbian?kaiOrder=448
中華語文知識庫ー漢字源流ー*上から順に、求・裘・衣の字形変化
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E6%B1%82
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E8%A3%98
https://www.chinese-linguipedia.org/search_source_inner.html?word=%E8%A1%A3
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