縁:常用漢字、漢検4級

 「縁木求魚」という漢字の「縁」。簡単な成り立ちかなと思って調べ始めたんですが、不明な点があるためか、各辞典の解説も意見の分かれるところのようです。結局、どれが正しいのかの判断はわたしにはできませんでしたが、思考の過程を備忘録として残しておきたいと思います。最後にわたしなりに出した答えを書きますが、あくまでも私見ですので<苦笑>、「こんな考え方もあるんだ~」程度に読んでもらえたらと思います。

 では、まず意味を確認します。『漢字源』「漢語林』『新辞源』を参考にしてまとめてみました。

①つながり。関係。掛かり合い(関係をもつこと)。
② まつわる。からむ。めぐらす。
③ふち。へり、衣服・物のへり。ふち飾り。*「ふち、へり」は物の端(はし)・周りの部分のこと。
④[よ―る]へりからもとへたどる。手掛かりによって何かをさぐる。手づるにそって進む。もとづく。 したがう。たよる。たどる。
⑤[よ―って]それがきっかけで。原因となって。


 次に成り立ちです。現在の表記は「縁」ですが、旧字は「緣」と書きます。この旧字をもとに説明します。「緣」は、
「緣」=「糸」+「彖(タン)という組み合わせです。そして、
「彖」=「彑(ケイ)」+「豕(シ、いのこ)に分けることができます。
 「糸」は、いわゆる「いと」のことです。旧字体は「絲」とも書き、「撚(よ)った糸」のことを表しています。また、「糸を意符として、いろいろな種類の糸や紐(ひも)の類い、その性質・状態、それを用いる動作、また、糸を織ること、織物、その紋様などに関する文字ができている。」『[新漢語林 第二版』とあり、このことを頭に入れて「縁」という字をみないといけないと思います。
 「豕」は、豚(ぶた)あるいは猪(いのしし)のことです。「豕」だけでも、ブタやイノシシのことを表しますが、それに「彑」が付いています。「彑」は、猪(いのしし)、あるいは豚の頭とする辞典の他、単に動物の頭としている辞典もありますし、ハリネズミの類(たぐ)いとする辞典もあります。ハリネズミとはちょっと意外かもしれませんが、「彑」は動物の「牙(きば)」を強調した字形のようで、ハリネズミの針(はり)が想像できますし、いのししの牙が頭に浮かびます。
 なお、「彖」は「豕」に頭をのせた字形ではないとする見方もあります。
 わたしは、「豕」が「ブタ」と「イノシシ」どちらともとれる字形のため、「彑」をつけて、「大きな牙のある豕=いのしし」と特定したかったのではないかと考えます。そのためかどうかわかりませんが、には「イノシシが走る・逃げる・巡(めぐ)る」といった意味もあるようです。

 以上のことを頭に入れて、3つの辞典の「縁」の成り立ちの解説をみてみます。
『漢字源 改訂第五版』
会意兼形声。彖タンは、豕シ(ぶた)の字の上に特に頭を描いた象形文字で、腹の垂れ下がったぶた。豚トンと同系のことば。緣は「糸+(音符)彖」で、布のはしに垂れ下がったふち。
『新漢語林 第二版』
形声。糸+(彖)。音符の彖(タン=エン)は、転に通じ、めぐらすの意味。衣服のふちにめぐらせた装飾、ふちかざりの意味から、ふち・まつわるの意味を表す。
『角川新字源 改訂新版』
形声。糸と、音符彖タン→エンとから成る。織物の「ふち」の意を表す。借りて「よる」意に用いる。

 以上、「縁」の持つ意味とそれぞれの成り立ちを付き合わせてみましたが、すっきりしません。それで、「糸」「豚」「猪」をキーワードにしていろいろと調べていたところ、意味や成り立ちに関係のありそうな興味深い記事が見つかったので、該当部分を抜き出して箇条書きにしてみました。

・ブタはイノシシを家畜化したもの。
・ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギといった家畜は原種が絶滅、またはかなり減少してしまっているが、ブタは祖先種であるイノシシが絶滅せず生息数も多いまま現存しているという点が特徴的。
・ブタは類人猿以上に体重や皮膚の状態、内臓の大きさなどが人間に近い動物である。
・豚の遺骨として最も古いものは中国南部の一万年前のものである。東アジアでは中国の新石器時代からブタは家畜化されていた。
・イノシシは雑食性であり、農作物を荒らし、時には残飯や排泄物も漁(あさ)るなど、人間の居住空間にも侵入する。狩猟獣では美味な肉資源となり、鋭い牙を持ち気性は荒いが、生け捕りされ飼育も行われる。このように人間との親和性を持つイノシシは潜在的に飼育対象にされ易く、家畜化を考える上で極めて興味深い動物なのである。
・翼を広げた鷹のような玉製の鳥。胸の文様は太陽で、天を飛んで太陽を運ぶ鳥を表わしたものと想像される。翼の両端は豚のような獣の頭となっている。豚は中国では古代から重要な家畜で、神聖視されることもあった。身分の高い人物が持った宗教的な器物と考えられる。

 上記のような記事を読んでいると、人とブタ・イノシシ、あるいはブタとイノシシに深いつながり・関係があるかがわかります。その関係性をあらわすためにできた漢字が「縁」なのかもしれません。

 そういうふうに考えると、①②のような意味があることが納得できます。
 また、③の「ふち・へり」という意味も、「物の周り、物の周囲」から派生して、「物の周辺」という意味にもなり、更には「物の端(はし)」という意味も生じるようになったからのように思います。
 衣服のふち・へりやふち飾りという意味があるのは、おそらく当時の衣服のデザインのことを指していて、ふちやへりをいろいろな文様で飾っていたからだろうと思います。

 上記の結論に至るまでには、ブタやイノシシに、逃げるとき端のほうを走る習性があるためだとか、衣服のデザインに、子孫繁栄を願ってブタやイノシシの図柄を用いたためではないかとか、考えたりもしました。白川静氏の『字統』の「彖」に、「猪や豚が走るとき、周辺に沿うてめぐる習癖をもつことと、関係があるかもしれない。」とありましたので、そうかもしれないとは思いましたが、やはり、自分としては、単純に「縁=つながり」が元となって、いくつかの意味に派生していったと考えたほうが理解しやすいと思いました。

 もうこれ以上考えても堂々巡りになりますので、これで終わりたいと思います。

*参考資料
ブタ:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%82%BF
イノシシがブタになるまで(教員コラム)、黒澤弥悦、東京農業大学
https://www.nodai.ac.jp/research/teacher-column/0282/
似姿遺質 「原種イノシシ VS 家畜ブタ」、科学技術振興機構(JST)
https://scienceteam.jst.go.jp/student/science-reading-material/w02_2007/
中国国宝展 考古学の新発見ー新石器時代後期~戦国時代ー「玉鳥」、東京国立博物館
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=485
中国吉祥文様のリデザインー若者向けのパッケージデザイン、弘前大学学術情報リポジトリ*ダウンロードが必要です
https://hirosaki.repo.nii.ac.jp/records/5713

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