夷:漢検準1級

音読みは、「イ」。訓読みは、「えびす、たい-らか、ころ-す」など。

蝦夷(えぞ、えみし)、征夷(せいい)大将軍、尊皇攘夷(そんのうじょうい)、焼夷(しょうい)弾など、歴史にふれるさいに目にする程度で、あまり馴染みがない。
熟語には、漢検1級に出題されたものや、出題されそうなものもあるため、まず、成り立ちから調べてみた。

そもそも、なぜ「夷」という漢字ができたのか?

それは、自分たちと異なる人たち(民族?)の存在を表すためだったと思われる。

では、「夷」という人たちとは、どんな人たちなのか?。諸説あって、その真偽はよくわからないが、共通して言えることは、

・古代中国の、東の方に住んでいた人たち

ということのようだ。

そして、その特徴として、

・背が低い

・弓矢を使う(狩猟を行うという意味か?)

が挙げられる。

そして、「夷」という人たちを表す古い字形には次の3つが挙げられる。

①人が腰や膝を曲げて、体を丸くしている姿

②背の高い人の脇に、背の低い人がいる姿

③繳(いぐるみ*)の形。 *いぐるみ=射て、包(くる)む意から。

これは私見だが、時の移り変わりと共に、①と②は使われなくなり、③が残った。そして、今の字形「夷」ができたのではないかと思う。

①が使われなくなった理由としては、この字形が、

「尸(シ、しかばね):人間の死体。

の古い字形と、ほぼ同じ形であるため、背が低いという意味なのか、人間の死体なのか、意味の区別がつかなくなるからだと思う。

②が使われなくなったのは、大きい人の脇に小さい人を書いても、それが”背が低い人”なのか、”背が高い人”なのかをうまく表せなかったためではないか。あるいは、デザイン的に、その形を元にしてうまく漢字を作ることができなかったのかもしれない。

いずれにしても、最後に残ったのが③。

他の特徴として、弓矢を使うということがあったため、その特徴をもとに、今の「夷」という漢字に落ち着いたのではないかと思う。

講談社『新大字典』には、この「夷」の古字として、

𡗝

があり、見てわかるように、

「大+弓」:両手・足を広げて立っている人+弓の形

からできているが、

「夷」は、繳(いぐるみ*)の形、とするものが一般的のようで、これは、矢に糸や網をつけて、当たるとからみつくようにしたものであるため、「大」のように見えるものは実は「矢」の形で、「弓」は、矢に巻くように付いている糸や網を表しているものと思われる。

以上、「夷」の成り立ちについて調べてみた。

「夷」は元々、自分たちと異なる人を表す漢字であったと思われるが、背が低いという特徴から、

・平(たいら)であること。
・低く座る。しゃがむ。
・平らげる。平定する。
・常に。平坦で変化のないさま。平坦で目立たない状態。
・平(たいら)で広い。広く行き渡るさま。

などといった意味が生まれた。そして、異なる人たちという認識から差別感が生じ、

・東方の異民族の蔑称。

へと派生していったのではないかと思う。

漢検1級対策として気になった熟語は、

夷悦(イエツ):かどがとれて、和やかに喜ぶ。夷愉(イユ)、夷懌(イエキ)。

あまりいい意味で用いられない「夷」だが、平であることから和やかという意味に派生している例で覚えておきたい。

また、当て字として、

辛夷(シンイ・こぶし)

日本では、「こぶし」、中国では「モクレン」のこと。この花の蕾(つぼみ)は漢方薬になるそうで、「シンイ」と呼ばれる。勝手な思いつきだが、「辛い症状を平らかにする」ということなのかなあと思った。

人の名前にはあまり用いられないような気もするが、この名前はすぐに浮かんだ。

 東山魁夷(ひがしやまかいい)

魁(さきがけ)は、「その道を初めて拓いた人。元祖。先駆者」という意味で、それに「夷」を組み合わせるというのはなんとも奥深い名前。

このコロナ禍が収まったら、各地にある東山魁夷関連の美術館などを訪れてみたい。一日も早くその日が来ることを願うばかり・・・。

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