愛
愛が含まれる熟語に、「愛日(あいじつ)」というのがある。意味は、
①愛すべき太陽(日光)。冬の日の別称。夏の強烈な日光に対して、冬のやわらかく
暖かい日光をいう。
②日を惜しむ。時間を大切にする。
③時日を惜しんで父母に孝養をつくすこと。『新漢語林第二版』
とあり、単に①の意味だけでなく、意味深い熟語だなあと、心に残った。
愛という漢字の成り立ちを考えたとき、字形が似ている漢字として思い浮かんだのは「受」。しかし、それぞれ成り立ちが違っていて、思考の日々。
まず、「愛」は、「旡(キ)+心+夊(スイ)」。
「旡」は「既(すで)に」という漢字の右側にある漢字で象形文字。
・座ってる人が後ろ向きになって口を開く形、あるいは顔をそむける形。
・食べて、げっぷが出たり、むせたり、息がつまる様子。
・・・らしい。
「夊」は、下向きになった足の形、足をひきずる形、『字統』では「止」を逆さまにした形とみていて、いずれにしても象形文字。尻込みしながら下がる、ゆっくり歩く、向こうから来る、上から降りてくる、というような意味らしい。
この「旡」「夊」に「心」が加わり、「愛」という漢字ができたとのこと。改めて、意味をみてみると、
①いつく-しむ。いと-おしむ。
ア.かわいがる。大切にする。また、めぐむ。恩恵を施(ほどこ)す。
イ.こいしたう。男女が思いあう。転じて、情を通じる。「恋愛」
②め-でる(めづ)。好む。親しむ。また、楽しむ。賞美する。
③お-しむ。大切にして手離さない。また、物惜しみする。けちけちする。
④お-しい。心残りである。残念。
⑤仏教で、異性や物をむさぼり求めること。十二因縁の一つ。
⑥キリスト教で、神が人類に幸福を与えること。また、人類すべてを兄弟として
いつくしむこと。
⑦愛情。
⑧生きがいと考えすべてを打ちこむ心。 『新漢語林 第二版』
④や⑤の意味と、「旡」「夊」の意味とを考え合わせると、なるほどなあと思うし、
『字統』には、「後ろに心を残しながら、立ち去ろうとする人の姿を写したものであろう」「愛とは心意の定まらぬ、おぼろな状態をいう語」とあり、「人の心意を字形に写して、巧妙をきわめている。」とあった。
一方の、「受」。
この漢字の成り立ちは、「爪(つめ)+舟(ふね)+又(ユウ)」。それぞれ象形文字だが、「舟」はこの場合、乗り物の「船」ではなく、昔、祭りのときに用いた器。
「又」は普通、訓読みで「また」と読むが、音読みは「ユウ」。なんか聞き慣れない読みだが、「友」の音読みは「ユウ」。「又」が含まれていて妙に納得。
この「又」は、「更に、再び、その上、同じく、並びに、それから・・・」というような意味で用いるが、漢字の成り立ちとしては右手の象形文字で、「手、右手、右」という意味を表している。
ということで、「受」は、何か物を渡すときに器に入れ、手から手へと受け渡すことを表している。
改めて、「愛」と「受」の字形の変化について整理してみると、
「愛」は、「旡」の部分が、「爪+冖」になっている。一方、
「受」は、「舟」の部分が、「冖」になっている。
この「冖」は音読みで「ベキ」、訓読みで「おお-う」。部首の「わかんむり」と言ったほうがわかりやすいかもしれない。訓読みにもあるように、上から覆う、覆いかぶせる、という意味の象形文字。
時代の移り変わりと共に、生活、習慣、文化も変化し、言葉の概念も複雑多様化していく中で、その概念に添った漢字に置き換えられていったと考えたい。
コメント