作者:廣嶋玲子
画家:木村いこ
発行所:理論社
発行年月:2020年4月(初版、第1刷発行)
出版社からの内容紹介:
商店街の福引で幸介が当てたのは、「神様の卵」。やがて神様の誕生を迎えると、願い事が叶い放題だと喜び、お母さんと一緒に願望をぶつけるべく、いわば赤んぼで手間がかかる神様のお世話に明け暮れる。神のご加護はあるのか?
編集者コメント
「かみさま、お願い!」……われわれは一日何回そう思っているのでしょう。一度も思ったことがない!というひとは稀ではないでしょうか。安易にとなえてしまいがちなこの言葉。願いと現実の間にある溝を埋めるのに、神頼みはどんな意味があるのでしょう。俗っぽい願いや欲をそのままぶつける人間とは……。物語をただただ楽しんだ先に「天は自ら助くるものを助く」がしみいってくる物語です。
随感随筆:
とにかく面白くて、一気に読んでしまった。本を読むことに慣れ親しんでいないのにと、びっくりするぐらい。
なぜかと考えると、このお話の場面設定が、小さなお子さんのいる家庭によくある日常であること。そして、卵から神様が生まれるなんて絶対あり得ないことなのに、読んでいるとそれが「あり得る」ことのように思えてしまう。それはおそらく自分の中に、神様を信じる心であったり、神様にお願いをしたり、頼ったりする心があるからだと思う。
このように、ただ単に面白いだけでなく、神様への願いを通して、人としてどうあるべきかといった難しく大切なことを、子どもにもわかりやすく、笑いの中にちりばめられてある。
幸介のお父さんが神様の赤ちゃん「ボンテン」と初めて会ったとき、幸介たちに、「・・・かみさまは神社とか教会とかにいらっしゃったほうがいいんじゃないか?うちにいていただく必要はないんじゃないかな?」と、ぼそりと言ったのにも関わらず、ボンテンは、「気にしてない。むしろ、われは父上どのが好きじゃ」「この家で、父上どのが一番、神のことをわかっているから」とくすくす笑う。
犬やねこを欲しいと願う幸介に対して、「おぬしにはもうわれがいる。うんとかわいがり、めんどうを見るべきものがいるのだもの。かなえられている願いは、われにもかなえようがない。」と、満足そうなボンテン。
物語の後半には、幸介に対してボンテンが諭すように言う。
「人一倍努力するものにこそ、お金は集まるものじゃ。たなからぼたもちなど、神の力でやるべきことではない。」「かみさまというのは、がんばっている人に最後のひとおしをするのが役目なのじゃ。努力もしていない人間、がんばらずに良い結果だけを手に入れたい人間の願いごとなど、かなえられるはずもないのじゃ。」と。
そして、すっかり家族の一員となったボンテンが神としてひとつ成長し、おなかに「幸(さち)」という赤いもようが浮かび上がった。その理由(わけ)を幸介がボンテンに尋ねると、「家族がお礼を言うてくれたからじゃ。」「うすっぺらなありがとうではなく、本当に心のこもったありがとうを言うてくれた。神にとって、それはなによりのごちそうなのじゃ。」と。
この本を読み終えたあと、なんとも言えない幸福感に浸ることができた。子どもたちだけでなく、大人も童心に返って読める一冊。
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